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ロッドウルム編 本命には
ミチと卿次さんの間で、どんなやり取りがあったのかは詳しくは教えてもらっていない。が、ミチはどこか安堵した様子だった。
卿次さんは、エトナさんのカーテン触手を掬うように手に取る。
「まぁね。……星に帰って良いって散々言ったのに、俺についてくるから。もしかして日本語が通じてないのかと思ってさ。この子たちは自由になりたいはずなんだ。ミチくんみたいに通訳が出来る宇宙生物に出会ったら、帰って良いって伝えてもらおうかと」
俺がずっと拘束していたから、逃げられないと思い込んでいるんだ。と、卿次さんは蛇さんの頭に手を置いている。
ミチは首を傾げながらもズバッと告げた。
「伝えるも何も。言葉は通じてないが、そいつらはどう見てもお前が好きだろ。自分の意志でお前の近くに居るんだ。お前、シークレットルームで俺の話聞いてたか? 顔に似合わず鈍いんだな。彼女いないだろ?」
胸を押さえた卿次さんが血を吐いている。
「ミチ……。オブラートに包んで」
「ん? 何かミスったか?」
可愛斗はリスさんの尻尾を摘む。
「俺でもこいつらが嫌々ここにいるなんて思わねーのに。お前の宇宙生物センサー死んでるんじゃないの? あれか? 本命には鈍いタイプってやつ?」
トドメを刺されて撃沈している。もうやめてあげて。
「卿次さんには翻訳機なんてないんだから。俺らみたいな円滑なコミュニケーション取れないなかで、手探りで頑張ってたんだよ。きっと」
「翻訳機?」
「翻訳機⁉」
可愛斗と卿次さんが反応した。とくに撃沈していた方。
「ずるいって! 翻訳機あるんなら、ルンバさんは俺にちょうだいよ。人間でいうとこのメイドさんみたいな生物なんだろ? たくさんいるんじゃないの? 一体くらい……」
ルンバさんを抱っこしている俺を庇うように抱きしめる。俺は頬を赤らめ、巻き添えを喰らっている可愛斗は歯軋りしていた。
「言葉に気を付けろ。ルンバさんは俺の主だ」
あるじ……
「え、どういうこと?」
素直に彼にもたれると、ミチの手が頭を撫でてくれる。し、しあわせ……。背中からギリギリ歯軋り音聞こえるけど。
「簡単に言えば、ルンバさんが上司だ。俺の」
室内が静まり返る。
手を伸ばして、可愛斗がルンバさんをつつく。
「このちっこいのが?」
「俺もスライムだし、小さいぞ?」
「じゃそんな高身長イケメンに化けてんじゃねーよ縮めムガッ」
叫び出した可愛斗の口を手で塞ぐ。
「あれ? 上下関係逆だったんだ」
「ああ。ルンバさんは地球の生物で例えるなら、細菌型生物。個体名アー……ルンバだ」
大人しくなった可愛斗の頬を引っ張る。思ったより伸びるな。
「個体名ルンバでいいの? 俺が適当につけたものじゃん」
「本人が気に入ってるからいい」
「そうなの? 嬉しいけど」
俺とミチの間に割り込もうとしてくる可愛斗。頭に乗ってるリスさんが丸まっている。
「でかすぎだろ。細菌の語源知ってる?」
「例えだ、例え。エトナだってクラゲじゃないし」
卿次さんがじりじりと近寄ってくる。
「そんなすごい生物なの? ミチくんの上に君臨出来るとか。ちょ、ちょっと触らせて」
「こっち来んな。触れるな近寄るな見るな」
自分の身体で俺たちを隠そうとしている。さらっと流れた銀の髪が目に入った。
「髪、結んであげるよ」
待ってましたとばかりにヘアゴムとブラシを差し出すルンバさん。ミチはもう背中を向けていた。やってもらう気満々である。かわいい……
正座して、ルンバさんを膝に乗せると彼の髪を梳かす。手を放したがルンバさんは大人しかった。
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