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ロッドウルム編  飼い猫

「ほとり。ロッドウルムとかは俺とルンバさんに任せておけばいい。怖がる必要はない」 「バカかよ。お前、あいつの電気で一発だったじゃねーか。何を任せるんだよ、何を」  可愛斗がミチに絡んでいる。ミチが動けないのをいいことに指でつんつんしながら。  ミチの手が、がっと顔を掴む。 「返す言葉もない。だがお前たち一般人よりかは戦いなれている」 「はなちて……」  可愛斗の顔をバスケットボールのように掴んでいる腕をさする。放してあげて。 「だから! ミチが危ない目に合うのやだって」 「お前の気持ちは嬉しいが、さっさと片付けた方が良い。被害がデカくなる」  すんごい近くにきた卿次さんが胡坐をかく。 「そうねー。ロッドウルムは規模もデカいし。銃火器といった武器も豊富だ。放置すると被害は大きくなる一方よ? ほとりくん」  銀の髪を三つに編んでいく。 「……戦えもしない俺が、こういうこと言うのって、駄目、かな……?」 「いやお前がブレーキ踏んでないと、このイケメンとルンバ、飛び出して行くだろ」  可愛斗が頭をべしべしとたたいてきた。励ましてくれている、のだろうか。いてぇよ。 「そうそう! ほとりくんから見えないと思うけど。ミチくんすげー嬉しそうな顔してグフッ」  がっと顔を掴まれている。 「ほとり。何も気にしなくていい。言いたいことがあるなら言ってくれ。お前が戦えないとか、俺もルンバさんもそんなこと気にしてない。やさしいお前が好きだ」  結び損ねたヘアゴムが畳に落ちる。 「ががっがががが!」 「あーあ。ほとりくん壊れちったよ」 「キエエエエエッ。イケメン台詞を吐くな滅びろ」  ミチをぽかぽか叩いている可愛斗。ミチは孫に肩を叩いてもらっているじいさんみたいな表情になる。 「ミチくんさぁ。当然のようにルンバさんも戦力に入れてるけど、戦えるの? ルンバさん」 「ルンバさん自体はそこまで……。だが多数の兵器を所持している。それらを上空から撃ち込めば、地面ごと粉砕できる。その場所は大きな湖になってしまうだろうが」  可愛斗と卿次さんが露骨に距離を取る。エトナさんが近づいてこない理由が判明した。 「ヤバすぎだろそのルンバ」 「お前たち人間と同じで、物作りが得意だからな」 「人間って別にそんな兵器ばかり作ってないよ? 何に使うの? 惑星統一とか考えてる?」  三つ編みし直し、毛先をヘアゴムで纏めた。 「ありがとう。ほとり」 「ううん。いいよ」  笑顔を消し、ミチは赤髪に目を向ける。 「ルンバさんは無暗に兵器を使う生き物じゃない。スライム型生物。主に俺たちの種族を守るために使うんだ」 「主なのに君たちを守るのかい?」 「人間だって、飼い犬や猫を傷つけられたら荒れ狂うだろう?」 「あーおけおけ。そゆことね。荒れ狂うかはともかく……下手すりゃあの電車にレーザー砲みたいなものが降りそそいでいたわけか。ゾッとしないね」  俺はルンバさんの黒いボディを撫でる。 「ルンバさんはミチを大切に思ってくれてるんだね」 『僭越ながら、とても愛しています。ですが、ほとり様がミチ様に向けられるラブとは、多少色味が違いますので。どうかお気になさ』 「やめてええええ!」  ついルンバさんを放り投げてしまう。  もうミチは起きてるんだから、ほいほい言わないでぇええ。 「……ほとり? 今、ルンバさんが、ほとりは俺のことをゴッ」  可愛斗がミチにタックルする。いい笑顔に怒りマークを浮かべて。 「俺の前でイチャつけると思うなよガアアアッ」  可愛斗が火を噴いている。怪獣にでも変身しそうだ。 「若いっていいねぇ。じゃ、ロッドウルムはミチくんたちに任せてオッケーってことかな?」 「ああ。面倒だし、人間宇宙生物区別なく、惑星貫通砲で原子レベルにまで小さくなってもらうとしよう」 「惑星貫通砲って言ったかな? 今」  気軽に許可できるはずもなく、夕飯の時間になった。

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