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最終話 これからも
♢
卿次さんと別れ、改札。
彼の服を身に着けているミチ。
ジャージがボロボロになったミチのために服を一式くれたのだ。太っ腹である。だがジャージが弱めてくれていたミチの美貌が洗練された服のせいで爆発し、可愛斗が横に並びたくねーと一生ぼやいていた。
俺は、かっこいいと思うんだけど……惚れたフィルターかかってるのかな。
いい気分だったのにホームで、やってきた電車を見るなり拒否反応が出た。
血の気が下がり、ぐわんぐわんと頭が回り出す。鞄を持っている手が震えている。
「ほとり?」
「乗らないのか?」
「……」
返事もできない引き攣り笑顔の俺を見て、二人は電車を見送った。俺をミチの背に乗せ、卿次さんの家へ引き返す。
「え? どうしたの⁉」
訳を話すと車を出してくれた。
七人乗りの車。最後尾で俺はずっとミチの手を握っていた。俺の隣に座っている可愛斗も負けじと手を握ってくる。
渋滞に巻き込まれ、家に着いたのは昼過ぎだった。
「っはぁー。遠かった……」
途中で休憩を挟んだが卿次さんはハンドルにもたれている。部下に任せっきりだったから運転するの二年ぶりだわーと、怖いことをぼやいていた。
「ここがほとりくんたちの住まいか」
「住所がバレたな。記憶消しておくか?」
ミチの提案に「記憶消すとか出来るんだね」と感心しながらも首を横に振っておく。疲れたし、なにより泣きそうになっている卿次さんが気の毒だった。
「運転、ありがとうございます。助かりました。卿次さん、何かお礼でも……」
「ゆっくり休みなよ」
ウインクすると、卿次さんはそのままUターンしていった。もう関わることはないだろう。それでも世界のどこかで、自分以外にも宇宙生物と暮らしている人がいるというのは嬉しかった。
「座りっぱなしでケツがイテェ」
尻を摩っている可愛斗。
「可愛斗。俺のせいで、ごめ……」
「お? お? 悪いと思うなら、ちゅーくらいしてくれてもいいんじゃね?」
ニタリと笑うとずいっと顔を近づけてくる。一瞬、ほっぺにくらいならと思ったが。
「そうか。よし。俺が遊んでやろう」
可愛斗の肩に手を置くと、自分の方に向けさせた。
美形に顔を近づけられ、怪鳥がけたたましく鳴く。
「キアアアアア‼ ヘルプ! ほとり、ヘルプ!」
どっからその高音が出てるんだろうと思いつつ、玄関の戸を開けた。
鞄を下ろし、中からルンバさんを取り出す。床に置くとうぃーんと進んで行く。
可愛斗を引きずってミチが顔を出した。
「ほとり。円盤の中に放置していた紳士帽子を見てくる」
「そうじゃん! この猛暑の中で放置してたの⁉」
「生きてるだろ。一般人じゃないしな。死んでたら埋めておく」
「埋めるな。待て! 俺も行く」
危ないからルンバさんの近くに居ろと、可愛斗と共に家の中にポイされた。
ミチが走って行く足音と蝉の声だけが聞こえる。
「危ないこと全部、ミチに頼りっきりな気がする」
「頼れる相手がいるだけいーんじゃね?」
「たまに良いこと言うよな、お前……」
「惚れた?」
倒れたまま、にっと白い歯を見せてくる。好感度は確実に上がったよ。だからこそなあなあにしておけない。
「俺はミチが好き……なんだと思う」
「あいつ早く宇宙に帰らねぇかな。俺は諦めない」
立ち上がると、俺の鞄を肩にかけた。
「俺はもっと男を磨くから。覚悟しろよ」
荷物を持ってくれる背中を見送る。まさか宇宙生物を好きになり、同性から好意を向けられる日がくるとは。
呆けていると声がした。
「どうした?」
「あ、おかえり」
帰ってきたミチが三和土で足を拭く。玄関にミチ用のおしぼりを置いているんだけど、暑さで乾いている。もっと水を染み込ませておくべきか。
「紳士帽子の人は⁉」
「任せろ。埋めておいた」
親指を立てるミチ。
「ミチ⁉」
母の姉の山がホラースポットになってしまった。なんて説明すればいいんだ。
落ち込む俺に、ミチは朗らかに笑う。
「冗談だ。依頼主がいなくなったから、もう関わらないだとよ」
「そ、そっか……」
ようやく肩の荷が下りた気がする。
ちょっと狭いけど、ミチの横に座った。
「ミチ」
「ん?」
「ありがとね? 色々と……」
ミチは素っ気なく足に目を遣り、手を動かす。
「いや。俺がほとりと出会ってしまったせいだ。お前は巻き込まれただけだ」
「これからも、一緒に居てくれる?」
顔を上げてきたミチと目が合う。
青い星のような瞳。
銀の髪がふわりと舞うほどの速度で、逆方向を向いた。
「……もちろん。俺もほとりの横にいたい」
もごもごと呟いている。
心があったかくなった俺は感情を知りたいからではなく、ただただ、彼の肩にもたれかかるのだった。
【おしまい】
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