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第18話 割れ鍋に綴じ蓋と俗に言う
太縁眼鏡を外したり、かけなおしたり。不安と期待が交錯するさまは、そっくりそのまま英斗自身の心情を投影したよう。要塞を爆破されたような烈しさで素直な想いが堰を切る。
「おれなんか、おれなんかなあ。大学に入学した当日に、おまえにひと目惚れして以来だから片思いのベテランなんだぞ。おたがい回り道してたってことか? チクショー」
その、ぼやき節を聞いて、大雅はチノパンの尻ポケットから何かを取り出した。名刺大のそれを朱唇にあてがって曰く。
「検証したい。いまの言 を一字一句たがえずに復唱してくれ」
「こいつも、おまえの発明品か? 用途は」
「コンパクトサイズの嘘発見器。ひと目惚れ云々がうれしがらせに準じるもので、糠喜びに終わったときは生ける屍 になり果てるだろうからな。一応の保険だ」
「何が保険だ。正真正銘、マジな告白を疑うとか、どアホ!」
ラッシュアワーのホームで大っぴらにやり合うさまは、バカップルの域に達している。
英斗はコートの利点を生かして、ふわりと広げた。煙幕を張って敵の目をあざむく要領で、それをふたりの頭上に翳す。
ふたりきりの世界をこしらえたなかで伸びあがる。そして、素早く唇をついばんだ。
「……キスするのは愛しいやつ限定。どうだ、信用する気になったか」
アヤフヤにうなずくさまにカチンときて、今度はぶつける勢いで唇を重ねた。
石膏で塗り固められたように、大雅は棒立ちになった。ぎくしゃくと唇を撫でたあとで、眼鏡のレンズを高速で磨きながら、ぶつぶつ。
「両思い決定と手放しで喜んでもいいのか。いや、しっぺ返しを食らう予感がする」
「仕事帰りに拾ってやる。それまで、ここでネガティブ思考をこね回していろ」
と、言い渡して英斗は発射寸前の電車に飛び乗った。ドアに張りついて、遠のきつつあるホームを眺めやる。
置いてきぼりを食っても、じっと我慢。という風情でベンチの横で待機するさまに、胸きゅんが止まらない。有休を取って、大雅のもとへ引き返したくなるほどに。
告白されて、告白して返して、とんとん拍子に話が進んで却って現実味にとぼしい。甘い余韻が残る唇をつねって、さらにつねって、いっそう夢心地に浸る始末。
ぽややんとなったのが一転して、眉間に険しい皺を刻む。痴漢になりすましてビビらせてくれた罪、万死に値する。
よって、こちらも少なからずダメージを受けるのは必至だが、舌でじゃれ合うくちづけを含めて、いちゃつくのは当分の間おあずけだ──、
──と、心に固く誓ったにもかかわらず、英斗は押しに弱いタイプだ。かれこれ十年に亘って蓄積された恋心の前では、理性など砂の城よりもろい。
要するに、一週間と経たないうちに誓いは破られた。
晴れてつき合いはじめたのを機に痴漢プレイは卒業したかといえば、さにあらず。ねだり倒される形で、また性生活の充実を図るため、ときおり通勤電車の中で楽しんでいる。
貫かれて、めくるめいている最中に、
「アオカンまがいのスキンシップは、いわゆるスパイス。恋人同士にとって絆を強める名脇役となる」
などと囁かれ(正しくは言いくるめられ)て爆ぜてしまうあたり、ラブラブな証拠だ。
ともあれ午前七時四十七分発の特別快速は、愛を育むにもってこい……かも?
──了──
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