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第17話
◇
隼人side
「隼人さん、おはよっす!」
「おはよ!」
「楽しかった?お土産は?
…てか会えなくて寂しかったんだけど!お詫びに飯連れてってよ!」
翼が背中から抱きついてきて、相変わらず騒がしく挨拶してくる。
「はいはい、お留守番ご苦労様!
どーぞ、くまさんクッキー。」
「…え、なにこれかわい…」
「やっぱり。絶対好きそうだと思ったんだよ、笑」
「これ、隼人さんが選んだの?」
「いや、涼が選んだ」
「…ねえ!やっぱ涼さんと行ってんじゃん!」
「そうだな、笑」
「ずるい!じゃあ今度俺も連れてってよ」
「いいよ?…こないだのさ、あの子。あー、海くん!あの子も誘って4人でいくか!」
翼は2秒ほど、わざとらしく不貞腐れた顔で俺を睨み、突然笑顔になる。
「…仕方ないから、特別に海と涼さんも仲間に入れてやるか。」
◇
涼side
「おはようございます。」
「おはようございます!おかえりなさい!」
「おはようございます〜おかえりです。」
「ただいま、帰りました。」
「いかがでした?香港。」
佐々木先生が話しかけてくる。
「雨も降らなかったし楽しかったですよ。
あ、これお土産です。」
「これおいしいやつじゃないですかー!」
情報通の小林さんが反応する。
「すごい、さすが知ってるんですね。よく聞くけどどこで売ってるんだろうと思ってたんですけど。ちゃんと探せば見つかりました。」
小林さんが「缶は私にください!」と喜んでくれて、探してみてよかったなと思った。お店は有名なダンジョンみたいなビルの中にあったのだが、これがなかなか1人では見つけられなかったかもと思う。
さすが消防士は縦横無尽に街を走るからなのか、隼人の方向感覚には脱帽した。いや、あまりに道を間違えないから、ほんとに前世はわんちゃんなのかもしれないとさえ思った。
一つもらって食べると、確かに美味しい。
「また行きたいなぁ…」
「…?来月また出張で香港じゃないですか?」
佐々木先生が不思議そうに聞いてくる。
「あ、いや、やっぱ出張じゃ、全然ね。やっぱ誰とどこに行くか、って言うね。」
「…恋ですね…!」
「恋?!」
「…いや、香港にね!」
「あ、ああ。香港にね??」
◇
20時。
仕事帰り、駅を降りていつものスーパーに向かう。
隼人は今日の夜は当番で、帰ってくるのは朝の9時頃になるだろう。朝まで留守番だな。
…最近一緒にいるのが当たり前になりすぎて、隼人がいない日は「留守番」の日に感じてしまうんだよな…。
スーパーはいつものように、この時間の惣菜コーナーは焼け野原だ。
今日はかんたんに1人で煮込みらーめんとかいいかもしれない。いや、うどんにしようか、あったかい蕎麦も捨てがたい…。
あとは寒いから、明日の朝は隼人にミネストローネを作ろう。
トマトを買い足して、レジに並ぶ。
◇
帰って飯を仕込む。
お湯が沸くまでの間、空気の入れ替えも兼ねてベランダの掃き出し窓を開けてベランダに出てみる。
窓が結露してるから、拭かなきゃな。
下を覗いてみる。
どうしても隼人と連絡先を交換した時のことを思い出す。
あのときは会食帰りで、俺は酔っ払ってて、隼人もTシャツだったし、まだこんなにも寒くはなかった。
サイレンの音が遠くに聞こえる。
◇
隼人side
夜勤明け、
帰ると涼が飯を作ってくれていた。
「おかえり」
「ただいま!すぐ風呂入ってくる!」
「急がなくていいからなー!」
服を脱いで洗濯機に入れ、洗濯物を回す。
床が冷たい。
早く春が来ないかな。
シャワーから煙のように湯気が上がりはじめる。
湯気を見るとなんだか香港を思い出す。
黄大仙寺の占い師に
「あなただけ少し残るように」と言われた。
涼は外に出てろと。
占い師は言った。
「あなた大きい木。彼あなたの水、栄養。あなたたち最高のパートナー。2人、一生に一度きり。なくしたらダメよ。
あなた、彼に教える、彼の知らない気持ちの世界、feelingね。あなた、彼の心どこまでも連れて行きます。
そして、彼、あなたの身体どこまでも連れていってくれる。見たこともないところに。あなたを大きくしてくれる栄養、水ですから。大事にしなさい。大切なこと、迷わないで言いなさいね。」
俺はいつだって、飛び込むと決めて生きてきた。
風呂から出ると家中にいい匂いが広がる。
涼が出してくれたのは、ミネストローネだ。
「…ねぇ涼」
「なに?」
「…あのさ、一緒に暮らさない?」
一瞬だけ、料理を準備する手が止まったあと、冷蔵庫を覗きながら涼が呟く。
「じゃあ……
スーパーに近いところ探そっか」
END.
ーーー
無事完結です!
少し時間をおいてから、なんからかの形でスピンオフや番外編などなどを予定しています。またぜひ読みに来ていただけると嬉しいです。
本当にありがとうございました。
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