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後日談 3話

フィサの部屋の扉を軽く叩くと、 かすかに返事が聞こえた。 「レーベ……?」 中へ入ると、 フィサは不安そうに立ち尽くしていた。 ルヴェーグはそっと手を取り、ベッドへ導く。 「少し座ろうか。」 二人で並んで座るには少し狭いその場所へ、 ルヴェーグはフィサを自分の膝に引き寄せるように座らせた。 驚きに肩が跳ねる。 だが拒む素振りがないのを感じると、ゆっくりと語りかけた。 「……フィサ。シグマに“口説かれた”んだって?」 「く、くど……っ!? そ、そんな……そんな感じじゃなかった、と……思うんです……」 しどろもどろになるフィサに、 ルヴェーグは目尻を少し沈めた。 「そうかい? ……でも、フィサが揺さぶられたのは事実なんだろう? それを口説きと言わずに、何て言うんだ?」 声は責めていない。 ただ “心配でたまらない” という色が深く滲んでいた。 フィサはぎゅっと指を握る。 「……僕が……いつまでもめそめそしてたから…… 慰めてくれようとしたんだと思うんです……」 ルヴェーグは静かに息をついた。 「……ねぇ、フィサ。」 膝に座るフィサの肩に手を添えて、視線を合わせる。 「君がそうやって悲しむ必要はないんだ。」 「……え……?」 「僕は、ずっとこういう日常を生きてきた。 フィサがいなかった頃には、もっと危険な出来事だってあったんだよ。」 その声は“強がり”ではなく、蓄積された真実だった。 「だから……今こうして君といる、ということはね。 僕は君の想像より、ずっと強いということなんだ。」 その優しい断言に、 フィサの瞳は安心の光で揺れた。 「ね? 安心してくれ。 君をひとりにしたりなんて、しない。」 そして、少しだけ照れたように笑いながら続ける。 「もし僕が危なくても……シグマが僕を死なせはしないだろうからな。」 その言葉に、フィサは胸に縋りついた。 「レーベ……。僕……」 「大丈夫だよ。何も言う必要はないさ。」 ルヴェーグは背を抱きしめ、 そっと髪を撫でながら、ひとつ深い息を落とした。 二人の呼吸だけが部屋に満ちていく。 【後日談 終】

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