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第22話 父の承認
数日後。
父さんが一時帰国することになり、俺は冬馬と並んで空港ロビーで到着を待っていた。
「律、緊張してるか?」
「……別に、緊張なんてしてない」
ぼそっと答えると、冬馬が小さく笑った。
「嘘だ。さっきから腕を組んだり解いたりしてる。……五回目だぞ」
「……してない」
即座に否定すると、冬馬が俺の手をそっと握ってくる。
「大丈夫だ。お前の親父さんなら、わかってくれる」
「……うん」
でも、不安は消えない。
父さんは本当に、俺と冬馬のつがいの関係を認めてくれるのかな。
「律!」
声が響き、振り返るとスーツ姿の父さんが早足で近づいてくる。
「父さん」
歩み寄ると、父さんは柔らかい笑みを浮かべた。
「久しぶりだな。立派になったな」
「……別に」
思わず視線をそらす。
「相変わらず素直じゃないな」
父さんは笑って、俺の頭をくしゃっと撫でた。
その感触に、顔が熱くなる。
「冬馬くん、ご苦労だった」
「いえ、こちらこそ。律をお預かりできて光栄でした」
冬馬は丁寧に頭を下げた。
そのとき――父さんの視線が、俺たちの繋いだ手にいく。
「……ふむ……」
意味深な笑い方。
慌てて手を離そうとした瞬間、冬馬が強く握り返してくる。
「離すなよ」
「冬馬……!」
思わず小さく抗議する。
「いいだろ。もう隠さなくていい」
にやりと笑う冬馬。
むっとする俺を、父さんは楽しそうに見ていた。
「なるほど、そういうことか。さあ、帰ろう。家でゆっくり話そう」
*
屋敷に戻り、書斎で三人向かい合う。
重厚な机を挟んで父さんが座る。
冬馬は姿勢を正し、真っすぐな声で言った。
「律の首に、つがいの印があります」
父さんの表情が、一瞬だけ変わる。
「……見せてみろ」
「えっ……」
恥ずかしさで顔が熱くなる。
そっと首筋を見せると、父さんはじっとそれを見つめた。
「律を必ず幸せにします」
冬馬の瞳には、嘘も迷いもない。
長い沈黙の後、父さんはゆっくりと息を吐いた。
「……ただし、条件がある」
「条件……?」
「律、お前はまだ十八だ」
「……うん」
「大学へ進学しなさい。家を継ぐにせよ継がないにせよ、学ぶことは必要だ」
「……わかった」
素直に頷いた。
たしかに、父さんの言いたいことはわかる。
「そして冬馬くん」
父さんが冬馬を見据える。
「律を支えてやってくれ。律は不器用だが、心は優しい子だ」
「存じております。必ず、律を守ります」
冬馬は深々と頭を下げた。
「よし」
父さんは立ち上がり、はっきりと言った。
「朝比奈律と桐生冬馬の、つがいの関係を正式に認める」
よかった。父さんに……正式に認めてもらえた。
「律」
父さんが優しい目で俺を見る。
「幸せになるんだぞ」
「……うん。ありがとう、父さん」
そう言うと、父さんは穏やかに微笑んだ。
「冬馬くん、律を頼んだ」
「はい。お任せください」
冬馬が力強く頷く。
書斎を出ると、冬馬が俺の手を握った。
「良かったな、律」
「……うん」
「これで、堂々とお前と一緒にいられる」
「……別に、堂々とじゃなくてもよかったけど」
そっぽを向くと、冬馬がふっと笑った。
「素直じゃないな」
「……うるさい」
でも、嬉しい。
冬馬と、正式につがいとして認められた。
「それと……城崎氏が来たそうだな」
「……うん」
父さんの問いに、自然と眉がひそむ。
「どう思った?」
「……嫌な人」
「そうか。私もそう思う」
「……え?」
父さんは真剣な表情で続けた。
「城崎氏は事業パートナーではあるが、信用はしていない。息子をお前のつがいに、と何度も持ちかけてくるが、私は断り続けている」
「……そうだったの」
父さんの視線が、まっすぐ俺を貫く。
「律、お前はもう冬馬くんのつがいだ。冬馬くんを大事にしろ」
「……うん」
さらに低い声で、警告を添える。
「そして、城崎には気をつけろ。あの男は執念深い。お前を諦めないだろう」
背筋が凍る言葉だった。
「でも、安心しろ」
父さんがふっと優しく微笑む。
「私も冬馬くんも、お前を守る。絶対に城崎には渡さない」
「……ありがとう」
「礼なんていらん。お前は、私の大事な息子だからな」
胸が温かくなる。
父さんは、ちゃんとわかってくれている。
俺と冬馬のこと。
それだけで、嬉しかった。
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