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第1話

 一目惚れに片想いって聞くと、報われない気がする。  でも、大学に入ってから約半年が経過。  以前として、一目惚れも片想いも継続中。  「…じゃ…ユキくんも、明日の特別講義に出るの?」  皆が話しているのは、そのまま特別講義の事だ。  臨時日程が組まれている。  講演と言っても、良いだろうけど…  「…違う分野なんたけどね…興味が、あって…」嘘は、言っていない。  「あぁ〜…そんなの掲示板で見たなぁ〜」  「外部講師だっけ?」  「調べたけど、有名な人らしいよ」  「確か…希望者が多くて、Aホールとは別に、モニター繋いでアリーナでも、見れるって」  「へぇ〜〜ソレは、凄いな…ってか、最初からアリーナで良くないか?」  「まぁ…アレだろ? お決まりな想定外!」  同級生達は、笑い合っている。    「でも、ソレって…単位は、付かないって聞いたけど…」  「ソレだけ見る勝ちあるとか?」  「やっぱり。コミュニケーションと、話術と対話は、これから先は特に必修なのかも知れないわね…」  「オレも、講義聞こに行こうかな…」  「アリーナなら見れるんじゃない?」    そんな同級生達との会話を耳にしながら…  オレが、視線を下から前へと向こうとすると、ドコからともなくあの香りが、近付いてくる事に気付いた。  漆原 アキ。同級生で同い年の二十歳。  モデルみたいな…は、抽象的すぎるかな?  でも、容姿を表現するとそんな感じで…  身長は、向こうが少し高いぐらいだけど、擦れ違うたびにフワッと香るオリエンタルって言うか…  ムスク系の香水が、鼻の奥を擽るようにオレの中に入ってくるんだ。  この香りを…  間近で、嗅いでみたい。  その香りに気を取られて、ボケっとした感じに前を向いたオレは、講義室の入口でその漆原 アキに軽くぶつかった。  「あっ…えっと…花乃…ユキだっけ? 悪い。大丈夫だった?」  アキが、オレの名前を知っていた事に対して、更に驚いてしまい。その弾みで後ろに、仰け反ってしまった。  たったそれだけの事なのに、身体が脈打つように、一気に心拍数が上がってしまった。  「…ユキ…だよな?……名前?」  「あっ…うん。オレは、大丈夫!」  そう言って、その場を取り繕ったけれど…  その何って言うか…  オレにとってアキは、憧れって言うか、好きな人って言うか…  近寄りがたくて、遠い存在。  いつも、可愛い女の子達に囲まれてて…  学校以外では、可愛いコ達にも、好かれているようで…  セフレを取っ替え引っ替えで、ラブホに連れ込んでいる。    アキに一目惚れしたのは、入学してまだ間もない頃。  あまりにも好みだったからその日の夕方、学校帰り。  密かに跡を付けていたオレは、アキのそう言う場面に出くわした。  自分から声を掛ければ、良いだけなのにソレが出来なくて、三年になる今まで、ずっとモヤモヤしている。  だって…  変に声を掛けて、セフレに追加されたくないしさぁ…  ソレでも、あのアキに肩を組まれたコが、見知らぬ誰かじゃなくてオレだったら。  優しく抱き寄せられてキスされている子が、オレだったらなんって、都合良く考えている自分にイライラした。  それでも、学校帰りのアキを遠目に追い掛ける事は、止められなかった。  だって知らない事を、知らないままでいるよりも、秘密を知ってしまった方が、まだ楽だもの…  そう割り切っていても、いざ街中でアキが、日替わりのセフレとイチャつく光景は、本当に最悪で…  情けなくなって、何度かマジ泣きした。  アキには、何人もセフレが居るみたいで、それにも腹が立ったけど、よくよく見ていると…  暇な時間や自分の欲求を、満たするみたいにセフレを呼び出したり逆に呼び出されたりの取っ替え引っ替えの良いとこ取りを、平気にやってのけていた。  それこそ…  朝、昼、晩で相手が変わることも事もざらだ。  相手側も、それを知っていて割り切っているふうにアキに会いに来る。  アキ達にとっては、ソレが普通の距離感なんだって理解してからは、自虐的にオレもその中に入れないかなぁ…とか、思ったりもした。  一目惚れにいつまでも、拘らずに次にいけばいい事だし学校帰りのアキを、付け回したりしなければ良い話しなんだ。  それでもオレは、アキが好き過ぎて、アキを見掛ける度にモヤモヤしていたのも事実…  単に、羨ましかったのかもしれない。  けれど学校でも、それ以外の場所でも、アキとの距離は縮まらず。  そのストレスからか、思わず自慰行為してしまう程だった。  コレでも、経験がないわけじゃないから。  自分の中で、分かっている気持ちの良い所をイジリながら何度も、アキを思い浮かべた。  時には、アキがセフレ達とイチャイチャしてる場面を思い出したり想像しながら。  嫉妬もしながら。  ローションで、濡らした指先で自分のナカにある気持ちの良いところを見つけては、喘いで後ろを刺激しながら湧き上がり溢れてくる快感が、止められなくなってきたのは、一年の頃の話し。  今では当然のように一人暮らしの部屋のベッドの上で暇さえあれば、アキを想像してオナってる。  密かに撮った構内でのアキの写真や動画を、文字通りオカズにして慰めてもらってる。  何も知らないアキに対して、罪悪感が無いわけじゃない。  それでも、自慰行為の最中にアキの名を口してしまう程にオレは、何をおいても卑猥でどうしょうもないぐらい淫乱な現実を楽しみに過ごしている。  そんな危険人物なオレが、アキに触れてしまったら…  自慰行為の快感を思い出したのと、アキから香るオリエンタルなムスクの香水に身体の奥から身を捩りそうになってしまった。  悶々しながら席つくと、少し離れた場所に、アキが座っているのに気が付いた。  しかも…間違いなく目が合った。  おそらくさっき、ぶつかったからだろう。  居た堪れないけど、アキの視線が… ほんのちょっとでも、オレを見ていたかと思うと嬉しくなったて…  その視線を思い出そうとすると、尽かさず身体のナカが、ゾクゾクしてきて激しく動揺してきてしまった。  どうしよう。  こんなんじゃ…  「…ユキくん? 大丈夫?」  たまたま席が隣になった女子が、心配げにオレを見下ろしている。  「あの…ちょっと…」  「具合悪いの?」  「…少し…オレ…この講義抜けるね…休んでくる…」  「えっマジ? 先生来たみたいだけど…オレ付き添うか?」  「…平気。医務室…行くほどじゃないから…」  オレは、周りにそう言って席を離れた。  「あれ? ユキくん! 荷物は?」  「聞こえてないみたい?」  「戻って、来れるのかなぁ?」  周囲は一瞬、騒然となった。    「取り敢えず。終わるまでそこに置いとけば?」  その言葉に、騒然としていた周囲が、俺に振り返る。  「アキくん?」  するとアキが、前を見るようにと促すと同時に講義が始まった。  「あの…アキくんって…ユキと親しいの?」  「いや…何となく名前…知ってるぐらい…」  「だよな。さっきぶつかった時。名前を確かめていたしたな…」  …なんて…  名前は、調べたから知ってる。  俺と違って、他県からこの大学に来た地方出身者だと知り合い経由で、教えてもらった。  ソイツらの話だと、年の離れた兄貴がいるらしいとか…  高校の頃は、遊び回っていたとか…  なのに今は、恋人が居ないとか…  まぁ…そりゃそうだよな…  「ユキくんが、講義の前に居なくなるのって、あの時以来じゃない?」  「あぁ…あの勘違いストーカーヤローの?」  「そうそう! ほらユキくんって、女の子みたいに華奢で儚そうなイメージあるから。ソイツの目には女子に見えていたんじゃないかって、もっぱらの噂よ。まぁ…いつの間にかに、どっか行っちゃったみたいだけど…」  「自業自得なんじゃねぇ?」  「それも…そうか?」  「でもまぁ…アレだけ可愛い顔してると、女とか困んなそうだなぁ…」  「そうか? 誰かと付き合ってる話は、全く聞かないけど…」  「近寄り難いとか?」  「ユキくんの場合は、美形+儚げでもあるからか、本人が明るく振る舞っても、そこだけ目立つんじゃない?」  あぁ〜〜…みたいな同情的な雰囲気になって、その会話はそこで終了したが、三十分をこえても講義室にユキは、戻ってこなかった。  ブーッ ブーッ ブーッ   ブーッ ブーッ ブーッ  「ねぇ…アキのスマホ鳴ってない?」  ちょうど、真後ろの席から声を掛けられた。  上着からスマホを取り出すと、実家4と表示されている。  急用と言えば急用なのか…  「ゴメン。実家から…」と、この場で通話に出る訳にも、行かず講義室から出ると、ジェスチャーを交えて講義室を出てからぶっきらぼうに通話に出た。  「……っ何だよ。今、学校…ゴメンじゃねぇーよ…今日?……ん? あっ無理。うん…じゃ気が向いたら…」と、セフレの一人からの呼び出しだった…  まぁ…向こうも、学生だし… たまたま暇になったからが、理由らしいけど…  スマホの表示…  実家は、まずいか…  気分を変えるように辺りを見回す。  シーンとしている廊下側の窓から  時々、人の気配と声が聞こえてくる。  同じ学内でも、講義が無いヤツもいるしサークルに立ち寄ってとか、下手したら単に暇で来ているだけって、ヤツもいるぐらいだ…  後40分程で、講義は終わるが…  今更、戻るのもダルい。  この講義は、単位や卒業に向けての講義じゃない。  聞いて損はないとの触れ込みだったし取り直して受けるか…  それよりも、ユキはドコに行ったんだ? 医務室がどうとか言っていたけど…  荷物の事もあるし覗いて見るか?  俺は、咄嗟にそんな事を思った。  医務室は、一階。  研究棟とサークルの部室棟の間にあるはずと向かってみたが、そもそも医務室はあいてなかった。  中に居るはずの看護師さんが、外出中と扉のボードに書いてあった。  そうなるとユキは、ドコに行ったになる。  一階でウロウロしていると、随分と陰気な所に来ていた。  昔は、部室棟があった一角らしいが、この御時世で空部屋になっているのだとか…  物置だとか、サボりに使ってる連中もいるけど…  中でも非常口近くのトイレは、薄暗いからと、掃除以外で使用するヤツはいないとか聞く。  だからヤツは、バレてないと思って使うんだ。  何となく奥のトイレ辺りから人が、囁いているような声が微かにしてくる。    ほら。やっぱり。  薄暗い扉の向こうから。  「…アァ…キ…」と名前を呼ばれた。  「ンッ…あ"っ…!」   アキは、おそらくオレみたいな華奢って感じじゃなくて、割とガッシリとした隠れ筋肉質タイプで、手脚も長くてスマートで顔立ちもカッコいい。  後まつ毛も長い。  大学の講義中にたまたま近くの席についた時、伏目がちな横顔にドキンッとなった。  そう言う感じのが、一目惚れに移行した…  気になり出すと一気に、熱量が半端なくなる。  とにかくアキは、目立つ存在で地味なオレなんかに振り向いてくれそうにない。  こうやって、自分を自分で慰めることしか出来ない。  自分で動かしているのに、自分の指の動きを止められない。  人気の無いこの一階のトイレに来たのは、コレが初めてじゃない。  薄暗いし目立たないトイレの個室の利用者は、略0に近いから入って直ぐに準備して、両手を壁に付いた状態から後ろ手に回した指で後ろを、丁寧に押し拡げながら刺激を加える。  端から見たらオレは、変態で相当無様な格好で、ハンカチ咥えて好きな人の名前を押し殺しながら呟いて喘いでいる。  こんな姿、見つかったりしたら?  アキにバレたら?  そう思うほど、興奮してしまい指の動きが早くなる。  オレ…何してんだろ?  マジに好きな人をオカズにして…  また学校で、シちゃうなんって…  「…ぁあぁぁ…ン"ッ…」  高校の頃、付き合った時は結構相手もドライな関係を望んでいたから。  付き合うと言うよりも、お互いに性欲の発散的な意味合いの方が、強かったのかもしれない。  だからオレは、アキの恋愛対象やセフレとの関係性に、アレコレ言えたもんじゃない。  「ん〜ッ」ヤバい。早くイって終わらせて戻らなきゃ…  いくら人気の所でも、誰も通り掛からない保証はないしと、冷静に思いながらも、手が止まらない。  時間がない。  これじゃ講義の時間が終わっちゃう。  アキも、帰っちゃう。  この講義を受けている切っ掛けは、アキが受けているから。  自由選択枠の講義にあたっていて、最初はオレ自身も面白そうぐらいな感覚で受けていたら。  一目惚れしてたアキに再会した。  人伝に聞いたらこの講義を選択しているって話しだから一緒… じゃないけど、一緒の講義を受ける段取りした。  同じ学部だから会う事もあれば、単位や卒業とか…色々と繋ぎ合わせると、会えない場合も多い。  親しくもないから当たりを付けて講義を受けるしかない。  だからと言って、貴重な時間なのにオレは、何をしているんだろう?  気持ちの良い事しているのに情けなくて泣けてくるとか、アホ過ぎる。  オレの中の火照りが、小さくなって…  まともな思考を取り戻したのは、それから数十分も、経った頃だった。  講義は、とっくに終わっていて…  自分の隠れた性欲の強さにうんざりとしながら荷物を置き放しにしてある講義室に向かうことにしたけど、時間割り的に最後の講義だったし…  もう誰も、残ってないよねと、フラフラとしながら乱れた服を直しつつトイレの個室から出た。  ユキが、どう言う気持ちで学校まで来て自慰行為をしたのか…  まさか、直前に俺とぶつかったからか?  あれぐらいで、欲情するもんか?   ユキの喘ぎ声は、相変わらず可愛い。  自分自身を抑えるのに必死で、周りが見えちゃいない。  学校の人気の無いトイレの個室で…  部屋にこもって半裸の涙目で、ヨダレ垂らしながら喘いでいる淫乱な姿も…  本能的によがっているユキも良いけど…  『…アァ…キ…』  同じ気持ちなら何も、隠す必要はないんだよな?  「あの…アキくん!」  「…何?…」  「アキくんって…まだココに居る?」  「えっ…まぁ…居るけど?」  「良かった。ユキくんの荷物なんだけど、私コレからサークルに顔出ししてから。バイトにもいかなくちゃならなくて…」  「良いよ。隣に置いてもらって…俺、ココでもう少し自主学するつもりだったし」  「じゃお願いするね」  「うん」  俺は、常に自分自身の体裁を守るための作り笑いと、平常心な表情を心掛けている。  こう笑えば、微笑めば、相手は喜ぶし不審に思われないって事を、予め理解した上で “ アキ ” を、演じている。  取り敢えず学校では、それなりに遊んでいるふうに、少し真面目なヤツとして振る舞っていて…  外では、学生としての身分や立場に気を付けて入れば、多少は何をしても疑われることもない。  三年ともなれば、講義の時間も余裕が生まれ整ってきたし…  言うなれば、就活に向けて動いているヤツらも多い。  バイトを入れまくって、今後の足しにするヤツも出てくる。  俺らには、一年と半年にも満たない学生生活が、残されているだけだ…  大学院や今学んでいる分野に進まなければ、その残された時間も無いようなもの…  最後のグループと、何やら待ち合わせでもしていたかのように扉の外から顔を出した友人と合図し合い講義室から出ていく人影を、また作った笑顔で見送った。  俺達が使っていた講義室は、中規模で講義場と大差はないが、空いている時間に限り自主学習にも使える場所としても、提供されていたから普段からそう言う学生が多く。  俺も、その中の一人だ…  ノートと参考書を広げてタブレットでも置いとけば、不審がるヤツは、略居ない。  ただ夕方になるにつれて人気は、まばらに…  ユキと一緒にいたグループも、さっき声を掛けてきた女子と、最後までいた人影が去ると一気にシーンしてきた。  確かに、この時間帯だと他の講義も終わる頃だ。  自主学するヤツらやサークル活動の部員が、動き回っているぐらで…  静かって言えば、まぁ…静かだ。  全くいつになったらこの荷物の持ち主は、表れんだか…  黒のキャンバス地に…猫? タヌキ? ブサカワ系って言うか、そんなワンポイントが、プリントされたトートバッグは以外としっかりとしていて、形崩れ防止なのか、縫い目が二重でバッグの底には汚れないためにか鋲まで打ってある。  よくコレを持って、学校に来ているし出掛ける姿を目にする。  お気に入りのか、使い勝手が良いのか…  俺は、自分の荷物の横に置かれたユキのバッグを手に取りバッグを開け中身を取り出すと、バッグの底板を捲り自分のバッグから取り出したカードケースから1枚のカード手に取ると、そのバッグの底板の裏に忍ばせた。  コレだけの薄さだし。  邪魔にならないだろうから気付かれることもない。  俺は、スマホを操作しながら地図と言うか、学校の見取図と言うのか、それを眺めた。  へぇ〜っ。  大まかな位置は、確認出来るみたいだな…  それなりに誤差があるのは、前もって確かめてあるけど… 実際に使うのは、初めてだしな…  バレなきゃいいけど、もしバレたら?  まぁ…バレても、あんな流通量の多い物。  大丈夫だろ。  ストーカーに付けられるぐらいのヤツだしと、普段学校では隠してる素が出る寸前で、講義室の扉が開いた。  「あっ…」  ポヤンと疲れきった表情のユキが、必死にやっとの思いで扉を開けるものだから心配になった俺は、手を貸すようにユキに近付いた。  「アキくん……」  「アキで良いよ。それよりも大丈夫?」  ユキの顔を覗き込むとユキは、気まずそうに顔を下に向け顔を赤らめされた。  今更だけど…  もっと早くにユキの気持ちに応えるべきだったりして?  意地悪な感情が、俺の中で沸々と蠢き始める。  今更、どうってことない。  ビクッと竦めたユキの肩に触れないようにと、静かに講義室の扉を閉める。  「えっと…」  その近い距離感の中で顔を上げたユキは、俺と目を合わせるが、顔を真赤にさせたまま息を潜ませその場で、固まってしまった。  「あの…何?…」  「荷物…」  「あっ…ゴメン…ありがとう…」  怖いのか、嬉しいのか訳の分からない顔をして、俺の方を見ようとしてくるユキは、まるで俺が退くのを待っているみたいだった。  ユキの少し汗ばんだ匂い。  本人が、一番気付かれたくない匂いなんだろうけど、俺がユキの前から退かないからそれどころじゃないんだろう。  散々、俺をオカズにオナって満足してココに戻ってくるとか…  待ってる方の身になれよ…  こんな顔されたら。  「あの…アキ…近い…んだけぇ…ど…」  言葉を遮られたままオレとアキは、軽いキスを交わした。  震えるぐらい嬉しいのと、温かいアキの体温に胸が苦しくなる。  短いキスを終えて距離が離れる瞬間、離れたくないと瞬間的に思っていたら不意にアキの上着に手が触れていた。  「…あの…もっとキス…したい…」言い終えて、自分でもなんでそんな事を言ったのか、願望がそのまま口から出ていた。  ニヤッて笑うアキの唇は、普段絶対に見せない裏のアキの姿だ。  嬉しくなってしまったオレは、とんでもなくだらしない顔をしていたと思う。  そして、鋭く絡み合うみたいなキスをした。  押さえ付けられた背中の扉から廊下を歩く人の声が聞こえる。  息が続かなくて、身体をアキから離そうとした手を、扉に押し付けられてしまったままキスは、止まらない。  首筋や首元にアキが、噛み付いてくる。  ほんの甘噛みたいなチクリとした痛みと感覚にオレは、喘ぎ声のような吐息を漏らす。  頭の中が、ぼんやりとしてきてキスの重さに身体が、また火照り始めようとする。  離れようと脚をバタつかせるとアキは、膝と脚を使ってオレの股下をグリグリと煽ってきた。  「うッ〜ンッ…」   オレの膝が、カクンッとなり崩れ落ちそうになる所をまたグイッとされた時には、悲鳴にも似た喘ぎ声を出しそうになるオレに対して、アキはニヤッとしながら舌を絡めた深いキスをしてくる。  互いの体温と体液とが、濃密に混ざり合うキスをし終える頃になると、おさまったはずの火照りがぶり返してきて…  「…ちょっとコレ…どうすんの…せっかく…おさまったのに…」と、咄嗟に下半身を押さえた。  それを落ち着いた様子で見下ろすアキの視線は、淡々としていてオレは、その雰囲気に飲まれそうになる。     「おさまったのに?」と、俺がユキの耳元で囁くと、身を捩らせその場にペタンと座り込んだ。  「あの…」目を逸らせようとするユキの動きを制止させるみたいに、床に膝を付きわざとらしく耳と首筋に息が軽く掛かるように声を掛ける。  「一人で、悪い事でもしてた?」  「悪いこと…」言葉を、言い掛けて塞がれた唇が熱い。  薄暗くなりつつある講義室に、二人だけが取り残されアキの荒い息遣いと、オレの喘ぎだけが響いているのが分かった。  「講義サボって、何してんの?」  「…ン"ッんッ…」  そう言えば…  舌先が絡み合うとか、性感帯を刺激し合うキスなんって、いつ振りだろう?  ピリピリとした感覚が、久し振り過ぎでソレだけで、軽くイってしまった。  元々、トイレてオナっ来たわけだし…  オレの身体は、いつも以上に欲にだらしなくなっている。  身体が、いつも以上の快楽を求めようと自然にアキの首に腕を巻き付け抱き寄せていた。  “ アキだって、オレにその気があったからキスしてきたんでしょ? ”  そんなふうに言える度胸も無いからオレは、アキを抱き寄せたんだ。  オレが、アキにしたのは、ただソレだけ…  床に押し倒されて、組敷かれ互いの脚を絡ませる。  オレは、傍観するみたいにアキの動きに合わせた…  アキの指先が、オレの服の中に差し込まれ身体を、手の平に吸い付かせるようにいやらしく撫で回すアキの動きが、たまらなくて身体が熱くし震える上がってしまった。  お互いを探るキスの形は、きっとまだ互いを、信用していないから。  でも、キスって気持ちの良いものだからオレもアキも、ドコで感じてくれるのかって、舌先や舌の裏を探りながらキスを繰り返すけど、アキはオレの乳首の先を爪でカリカリと強く押したり摘んだり。はだけたシャツの隙間からキスをしたり吸い付いたりしてくる。  嫌じゃない。  もっと、して欲しい。  「ンッ…あぁッ」  舌先で、わざと感じるように舐め上げてくるから意識が、ソコに集中するけど、アキがオレの下着の上から手を忍ばせ掴んで、ジゴクものだから気持ち良すぎて、また軽くイきかけてしまった。  ヤバい。  下着の中グチョグチョしてきて気持ち悪い。  アキが、ニヤニヤしながらオレの下着を下ろす。 「糸引いて…感じやすいの? それと淫乱?…」  スッと撫でられるようにアキの指が、這うように忍び込みオレのナカを押し拡げながら迫ってくる。  アキの指。  長くて凄い所まで届きそう…    簡単に気持ちいい所に届いちゃった。  喘ぐの我慢しているのに、声が漏れちゃう…  「あァんっ…」えっと…ココでシちゃうのオレたち? アキになら何をされても良いけど…  今、ココでシちゃたら歯止めが…  カラカラ…ガターンッ  扉の向こうで、音がした。  硬直するオレにアキは、上着を掛けて後ろ手に隠してくれた。 カラカラと遠ざかる台車みたいな音を聞きながらオレは、身を起こした。  「…ん〜…なんかシラけた?」  アキが、オレに確認するみたいに聞いてくる。  「えっと…」この状況は、帰った方が良いんだろうけど、本心は…  「…帰りたくなさそう?」  「あの…その…」  戸惑うオレの身体をタオルで優しく拭いてくれるアキの力強い腕をオレは、弱々しく掴んだ。  「……俺の借りてる部屋…ここから近いから…来る?」  そんなふうに囁かれたら行かないって、選択肢は一気に消滅してしまった。  縋り付くみたいにオレは、手を引かれるようにアキのマンションに向かった。  見慣れた外見のマンションは、かなり最近に建てたれたデザイナーズマンション。  アキの部屋は、その10階にあって土地もやや高台に位置するから眺めも良さそう。  ちなみに学校もこの高台の方に入る。  緩やかに下っていくと駅とか、商業施設とか、オレの住むボロアパートも、駅からはだいぶ離れるけど、この下の方にある。  いつも、学校に行く道の通りすがりとかに遠目に後を付けて、ココに来た事はあるけど…  セキュリティ厳しめだから入る事も、近付くことも難しい。  分かるのは、だいたいの部屋の位置ぐらい。  アキが正面から入っていって…  時間帯的に電気がついた部屋だったからアソコに住んで居るんだぐらい。  勿論オートロックだし。  防犯カメラも、目視だけで数台。  アキは、荷物からスッとカードケースを取り出し。かざさなければならない何かに、かざしピッと音を鳴らすと正面奥のガラス扉が開いた。  床も、壁もピカピカ。  外観もシックで落ち着いた雰囲気で場違い感が、半端なかった。  エレベーターホールも、エレベーター内も、モノトーンだけどオシャレで、コレが友達の部屋だったら物凄くハイになっている自分を、容易に想像できた。  こう言う所に入れるとか、普通ではあり得ないし。  アキをずっと、追い掛けていた手前…  なんか、悪いコトをしてきた自分が、邪魔するみたいに…  申し訳ないなぁ…って、他人事みたいに思い始めていた。  何度も外から見上げながら思ってた。  いつかは、入ってみたいなぁ…  でもアキは、友達や知り合いですらコノ部屋に入れなかった。  理由は、分からないけど…  それは、ずっと追い掛けていたオレだからから何となく気付いたみたいな?  友達だって多いし。  地元らしいし。  セフレの数だって、それなりだし…  モデルみたいな容姿と違って、来るもの拒まずみたいな所にも惹かれてしまったオレも、どちらかと言うとアキの思考に似ているような…気もしなくないけど…  さっきアキが、オレに無意識に見せたニヤリ顔。  セフレ達にも、見せていたから嬉しかった。  オレも、他のセフレ達と対等にアキから認識されたみたいな気がして…  「どうぞ…」手を引かれて部屋に入ると、アキの匂いに包まれた気がした。  エキゾチックなムスク系の香りが、オレの鼻から通って全身に広がると同時に扉が閉められると、再びオレとアキは、長くて深い。  そして、少しもどかしいキスを繰り返した。  玄関の壁に押し付けられてアキの腕が、俺を包み込もうとオレの身体をまさぐるから。また少し喘いでしまった。  ソレぐらい強引にされると、正直に言ってタガが外れやすくなる。  薄暗い部屋の窓からは、西日が差し込んでくる。  脚が縺れて廊下に引き倒された時、アキが一瞬戸惑った。  「…床…冷たいよな…」なんって、真顔で言うものだからオレの方が、テンパって「雪国出身だから大丈夫!」とか、わけの分からない事を言い出して…  ナゼか、2人して腹でも抱えるように爆笑した。  身を起こして、じゃれるみたいに抱きしめられてオレは、アキの腕の中に顔を埋めた。  「あのさぁ…アキ。コレからスるの?」    怖気付いたわけじゃなくて…  アキの気持ちを、試したかったのかも知れない。  ちょっとした事で、高揚した気分とか、そう言うのは、簡単に冷めてしまうから…    そんなユキの物欲しそうな表情は、アキにとっては唆られるものがあり。  アキ自身も、欲に負けてユキを部屋に招き入れてしまったのだから自分自身も物欲しそうな顔をしているのかと思うと、妙に小っ恥ずかしくなった。  ただ今までも、不特定多数の誰かを、実家の部屋や一人暮らし中のこの部屋にも上げた事はない。  セフレだからこそ部屋を特定されたくないのもある。  待ち合わせ場所は、部屋からも学校からも離れた所でと、決めている。  郊外でも、国道沿いならソレなりにラブホはある。  もしもと言う時は、振り切ればいいだけだと安易に考えている所は、気を付けないとならないと、分かっていたが、国道沿いは脇道も多し地元民にとっては、見知った幹線道路だ。  どうにかなると、言い切る所は危なっかしいとも言える。  ただアキが、本命を作らずにセフレに徹底したのは、高校生の頃からで、しかも幼い頃から自分の容姿を褒められ事に慣れていて、褒めちぎるヤツ程、ろくなヤツじゃない。  “ 顔が良いから。モデルさんとか…芸能人とか? ”  そんなの嫌だよ。  遊べなくなる。  “ その顔で、普通にしてるとか…勿体ないなぁ〜っ… ”  顔は、顔でしょ?  勿体ないってなんだよ。  親も、ソレを言われるのが嫌で、そう言う思考の人を遠ざけてくれたし学校も学区内の学校で、それなりに楽しめた。  まぁ…その中でも、俺の容姿を褒めちぎるような人は、多かったから。  近付かないで欲しくて、自分から悪ぶってみたりもしたから。今は、その延長なのかも知れない。  こう振る舞えれば、下手なヤツらは近寄ってこないって分かっているから。  「あの…アキ…」モジモジと照れたふうに落ち着かないユキの期待に満ちた瞳は、今にもトロけそうで…  「………………」  少し意地悪をしたくなった。  「悪いんだけどさぁ…」  「ん?」  「…今日、アレないんだよね…」  「アレって?」  ポケとした表情でユキが、俺を見つめてくるから悪いんだよ…  「今からスることに、凄く必要なモノ切らしてて…無いんだ」  「えっと…?」キョトン顔のユキが、マジマジと俺を見詰めてくるから妙に可笑しくて仕方がない。  「…あの…アキ?」  「ゴムの話なんだけど?…」  嘘のような本当のようなコノ話にユキは、反応するだろうか?  それとも冗談だと戸惑うか、嫌がるか…  その証拠にさっき学校で、シかけた時は、敢えて取り出さなかった。  まぁ…何って言うか、色々な意味で、必要だからモノは持っているが正しいけど…  「…………」 ユキは、下を向き数秒考え込んだ後に俺に向き直した。  「いいよ…無くても…」  モジモジしながら伏目がちな視線…  あざといって言うか、自分の表現が、あざといと知っているみたいな仕草に刺激されると言うか…  可愛く見えてくる。

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