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新品のセリク(*)
「ここがアオイの部屋……」
セリクは荷物をオレの部屋に下ろして、室内を眺めている。
「セリクの部屋よりずっと狭いだろ」
「うん……、牢より狭くて、ビックリした」
「ハハッ、牢屋より狭いか」
確かにあっちはどこもかしこも土地が広かったよな。
そんな事を思いながら衣装ケースから着替えを出したオレが振り返ると、セリクは目を丸くしてオレを見ていた。
「アオイが笑ってる……」
「ああ、もう人目を気にすることもねーだろ」
「そっか。そうだね……」
「お前もさっさと着替え出せよ、先行くぞ」
「あ、待って。すぐ用意するからっ」
慌ててがさごそと下ろした鞄からセリクが服を出す。
が、その服のサイズは今のセリクには合いそうにないな……。
「オレのを貸してやるよ。ちょうど同じくらいだろ」
オレはそう言って衣装ケースからもう1組パジャマと下着を出した。
「そっか……。うん、ありがとう」
セリクは少し照れくさそうにしながら、それを受け取る。
オレはセリクの手を取って階段を降りて、リビングで洗濯物を畳みながらテレビを見ていた母に声をかける。
「母さん、オレとセリクが先に風呂入るな」
「2人で入るの?」
「風呂の使い方も教えねーとだしな」
「そうねぇ……。のぼせないようにね?」
「ん」
オレの後からセリクも「はーい」と可愛く返事を返す。
いや、喋り方は前と変わんねーんだけどさ、声がさ、高いんだよ。
声変わり前ってほどじゃねーんだけど、骨格的に前より小さい分、前より高いんだよな。
くっっっそ可愛い。
「こっちだ」
熱くなりそうな顔を無視して風呂場に向かう。
母さんの心配した事も、なんとなく分かったが、オレだって皆の使う風呂では流石にしねーからな?
……と、思ってはいたんだよ。
けど、セリクが脱いだらもう、オレはそっちが見られなくなった。
なんとか必死でセリクを見ないようにしつつ風呂場の使い方を教えて、カラスの行水レベルで速攻入って速攻出た。
「ア、アオイ……?」
戸惑いの声をドア越しに聞きながら、オレは大きく深呼吸をして答える。
「ここにいるから、ゆっくり入ってこいよ」
「う、うん……」
「分かんない事あれば、なんでも聞けよ?」
「うん」
しばらくお湯の流れる音が続いて、それが止むとちゃぷんと小さな水音がした。
「ほわぁ……」
なんだよその声。可愛いすぎんだろ。
「お湯の中って、あったかいねぇ」
「……セリクは湯船に浸かるの初めてか?」
「これユブネって言うんだ?」
「浴槽とも言う」
「そっか……。僕、知らないことばっかりだね。アオイ、色々教えてね」
「ああ。なんでも教えてやるよ」
初めて湯に浸かったというセリクの顔が見たくなって、オレはちょっとだけ浴室のドアを開いて中を覗く。
浴槽の中に膝を抱えて座るセリクは、うっとりと目を細めていて、白い肌が湯の中でゆらゆら揺らめいて、濡れた淡い金の髪はポタリと水面に雫を落として艶めいていた。
「……っ!」
思わず息を詰めたオレに、セリクは気づいて顔を上げる。
「アオイ、お風呂って気持ちいいね」
そう言って微笑むセリクの頬は、ほんのり上気していて……。
オレはたまらずドアを閉めた。
「……あ、あんま長く浸かってるとのぼせるから、長湯しねーで出てこいよ」
「はーい」
返事と共にザバッと音がする。
あー!!
くっそ!!
なんでオレばっか、こんなにドキドキさせられてんだよ!!
オレは乱暴にバスタオルを掴んで、ドアの隙間から差し込む。
「これで身体拭け」
「うん、ありがとう」
セリクが出るまでに髪乾かして歯磨いとこうと思ってたのに、全然何もできてねーな、オレ。
「ねぇアオイ」
「何だよ」
「僕の身体って、全部新しくなったのかなぁ?」
「ん?」
「傷痕が無いんだ」
セリクの身体には薄い傷痕があちこちにある。
特に足首は、長い事足枷を付けられていたせいで繰り返し傷付いた痕がクッキリと残ってたんだが……。
カチャ、とドアレバーが下がってセリクが出てくる。
オレは思わず俯く。
するとセリクの細くて白い足が目に入る。
あれほどクッキリ残っていた足首の痕も、確かに綺麗サッパリ消えていた。
「僕の身体、新品になったのかな?」
新品って……。
今までが中古品みたいな言い方すんなよ。
「服着ろ」
オレは鏡の方を見ないようにしつつ、セリクに背を向ける。
「……アオイ……あの……。すぐ出来なかったら、ごめんね……」
は?
「あ、でも、僕あの、治癒できるから、すぐしたかったら、すぐでもいいよ」
「……待て」
オレの言葉に、セリクがピタリと動きを止める。
「いや、動きは止めなくていい。服は着ろ。髪も乾かせ。ただちょっと、喋るのは待て」
そこまで伝えて、オレは目を閉じる。
つまりなんだ?
セリクの身体は、こちら用に新しく作り変えられた、新品だと……??
だから?
今のセリクは処女で?
時間かけて解さねーと切れるんじゃねーかって?
なのに、オレに迷惑がかかるのは嫌だから、そのままぶち込んでもいいってとこまで言ったよな?
怪我しても治すからいいとか言いやがったな?
「っ、はぁーーーーー……」
オレは胸の中のモヤモヤを全部吐き出すようにして大ため息をついた。
そりゃすぐにでもヤりてーとは思ってる。
2年近く待ったんだからな?
つか正直、風呂入る前から、セリクが服脱ぎ出したとこからもうオレのは立ち上がってるしな。
セリクだって言わないだけでオレの状態はわかってんだろ。
だからこその、さっきの言葉だったんだろーし。
けどさ、オレは……。
目を開けて、セリクを振り返る。
オレの貸したパジャマを着たセリクは、不安そうな顔でオレを見つめていた。
「……喋っていいぞ」
「あ、あの、僕自分で解すからっ、面倒なこ……」
オレはセリクの口を唇で塞いだ。
舌を突っ込むのは部屋に戻るまで我慢だ。
「面倒だなんて思ってねーよ。これでも、お前の事は大事にしたいと思ってんだよ」
「……う、うん……」
元からほんのり上気していたセリクの頬が、カアアと音を立てるように真っ赤に染まる。
「いいからさっさと髪乾かして、歯磨いてから部屋に戻るぞ」
風魔法を使おうとするセリクを止めて、オレはドライヤーでセリクの髪を乾かしてやる。
ドライヤーの音にびっくりして肩を揺らすセリクに「大丈夫だ」と声をかけつつ。
濡れてペションとした髪がふわふわになる感触がどうにも楽しい。
歯磨きも、予備の歯ブラシを出してやって、洗浄魔法じゃなくてこっちのやり方を覚えるよう指導する。
歯磨き粉は試しにちょこっとだけ付けたが、やっぱりスースーしてピリピリするから嫌だと言われた。
明日にでも子ども用の甘いやつを買ってきてやるか。
いちご味とか、そんなんならセリクも使えるだろう。
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