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【番外】バレンタインの蒼とセリク(*)【季節のSS】

 10巻執筆時点で書いた季節のSSのため、もしかしたらこの先の展開次第では  パラレル時空扱いになるかもしれません、あらかじめご了承ください。 ---------------------- 「セリク、ちょいツラ貸せ」  アオイに連れて行かれたのはショッピングモールの特設会場で、広い会場一杯にぎっしりと出張店舗が並び、その全ての店でチョコが売られていた。 「うわぁ、すごいね」 「お前チョコ好きだろ? どれでも買ってやるよ」 「どれでも!?」 「……3つまでな」  アオイがバツの悪そうな顔をして視線を逸らす。  別にそんなに沢山欲しいって言うつもりはなかったんだけど……、あ、でも……あれもこれも美味しそうだなぁ……。  僕は並んだチョコの数々に導かれるようにして、ふらふらと人でいっぱいの特設会場へと足を踏み入れた。  すごいなぁ、こんな形のチョコもある。  わあ、これって組み立てられるんだ?  すごーい、これぐるっと全方向から立体的に出来てる……。  あ、ここのはドライフルーツにチョコがかけてあるんだ。  もっとよく見ようと僕が無意識に帽子のつばを上げると、途端にアオイがぐいっと帽子を下げた。 「あ、ごめん」  僕の言葉にアオイが「ん」とだけ答える。  んー……、色も形も様々なチョコ達はお菓子売り場のチョコよりずっと綺麗で美味しそうだけど、値段もそれ相応に高いんだね……。 「アオイ、僕いつものチョコで十分だよ? いつものチョコがいっぱい食べられる方がいいな」  アオイは僕の顔をチラと見てから、また売り場に視線を戻す。 「それも悪かねーけどな、年に一度の機会だし、たまにはお前にも良いもん食わせてやりてーんだよ。それにな、チョコってのはお前が思うよりずっと値段で味が変わるもんなんだ」 「……そうなの……?」 「ん。だからお前がうまそうだと思うのを選んでみろよ」  ……そっか、そうなんだ。  じゃあ選んでみようっと。 「分かった」と僕が答えたら、アオイは僕の頭を帽子越しにポンポンと撫でて「いい子だ」と耳元で囁いた。  うー……。外でそういうことするのやめてよぉ……。  顔が赤くなっちゃうよ……。  結局、僕とアオイは特設会場中を全部回って、行ったり来たりしながらチョコを選んだ。  僕がなかなか決めきれなくて、あっちのとこれとでどっちにしようか迷ってたら、アオイは両方とも買ってくれた。 「3つまでならいいって言ったろ」  でも、それどっちも高かったんだもん。  両方買ったらびっくりなお値段だよ……。  あれ、いつの間にかアオイもチョコを買っていたのか、腕から紙袋を下げていた。  ずっと僕の隣にいてくれたみたいだったのに、一体いつ買ってたんだろう。 「アオイはどんなの買ったの?」 「ん? 兄貴と母さんの分な」 「あ、そっか。チョコはプレゼント用なんだっけ」 「お前が持ってるそれは、オレからのプレゼントだからな?」 「うんうんっ、分かってるよっ」  なんなら一度回収してもう一度渡そうかと提案してくるアオイを、大丈夫だからと宥めながら僕達は家に戻った。  ***  今日は、こちらの世界で初めてのバレンタインを迎えるセリクを、チョコ売り場に連れて行った。  黄緑がかった瞳をキラキラさせてチョコを選ぶセリクの姿はすげー可愛くて、ワクワクしてんなって伝わってきて、オレも楽しかった。  まあ人は多かったし逐一並ぶしでそこそこ疲れはしたけどな。  家に戻って、買ってきたチョコを口に入れて、セリクは瞳を見開いた。  美味かったのか?  ……それとも不味かったのか?  そんな目玉がこぼれそうなほどまんまるに目を見開くなって。  くっそ可愛いだろ。 「すっっっごい! 口の中でとろーってとろけて、甘いのがふわぁぁぁぁぁって広がって……。僕噛んでないのに、チョコ無くなっちゃったよ!?」 「おーおー、うまかったか、良かったな」  その嬉しそうな顔、可愛くてたまんねーな。  オレはふわふわのプラチナブロンドを引き寄せてセリクのこめかみに唇を押し当てる。 「ね、アオイも食べてみて! これ! すごいから!!」  興奮気味のセリクが小さな箱を差し出してくる。 「8個しか入ってねーんだから、お前が全部食えよ」 「えええっ、こんなに美味しいのに!?」 「うまいからだろ?」  生チョコな、お前は初めてで驚いたんだろうけど、オレは食ったことあるから大体わかるしな。 「ええぇ……、アオイにも食べてほしかったのに……」  へぇ?  お前はオレにそれを食わせたいんだ……? 「じゃあ、食わせてくれよ」  オレがセリクに向けて口を開けると、セリクはびくりと肩を揺らした。 「えっ、ええっ……!? ぼ……僕が食べさせるの……?」 「いつもはオレが食わしてやってっけど、たまにはお前が食わしてくれてもいーだろ?」 「い、いい、けど……」  んだよ、歯切れ悪ぃな。 「なんか問題あんのかよ」  オレがじとりと半眼になると、セリクは慌てて首を振る。 「な、ないよっ、ちょっと僕が……恥ずかしい……だけだよ……」  尻すぼみになる言葉と共に、セリクの頬が朱色に染まってゆく。 「あーくそっ、お前はいちいち可愛すぎるんだよ!」  オレが突然吠えたのに驚いて、セリクが小さく跳ねる。  オレはセリクにずいと近づいて、もう一度口を開けてやる。 「ほら、早く食わせねーとオレが先にお前を食っちまうぞ」  セリクはオレに急かされて、慌ててチョコの小箱に視線を戻す。  ピックを手に取ったセリクが少し躊躇ったので、オレはすかさずセリクの手に浄化をかけてやった。  するとセリクは嬉しそうな顔をして、白くて細い指で生チョコをひとかけら摘み上げる。  ココアの粉がまぶされた黒っぽい生チョコが、セリクの白い肌に映える。  セリクはオレの口の前までチョコを運んでから、緑がかった瞳でオレを覗き込んだ。 「ねえ、アオイはチョコを食べても、僕のこと食べてくれる……?」 「そんなの、決まってんだろ」  オレは答えると同時に、セリクの差し出した生チョコをセリクの指ごと口に含む。 「ひゃ……っ」  可愛い声と共に指が引っ込められそうになるのを、ガシッと掴んで止める。 「な……、なんで……?」  いや、お前が誘っといて何そんな動揺してんだよ。  ああ、こいつの立場だと指を口に突っ込まれることはあっても、突っ込んだことはなかったのか。 「ふぇぇ、アオイ……いつまで舐めるの……?」  ククッ、ほんとに、このくらいですぐ狼狽えんのとかマジで可愛いよな。  オレはセリクの耳が真っ赤に染まるまで、たっぷりセリクの指を可愛がってやった。

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