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元聖女コミュニティ
オレはしばらく考えてから、玲菜……『キリアダン出身』宛のDMを書き始める。
つーかキリアダンに愛着があるのは分かるが、お前の出身はこっちだろ。
玲菜とオレはLINEは繋がってねーけど、コミュニティにいるこいつはキリアダンで300年以上過ごしてたってコミュ内でも言ってるし、こないだの捜索コミュにも「お世話になりました。無事戻ってこれました」って返事してるし、玲菜で間違いねーだろ。
兄貴はもう玲菜に話したんだろうか。
どんな説明をして、何を言って、何を言わなかったのか。
ちなみにオレのHNは『紫』だ。
元々オレはこのSNSにはアカウントを持っていなかったので、コミュニティのためだけにアカウントを作った。だから聖女の時のイメージカラーから取った。
兄貴は友達の関係で既にアカウントを持っていたが『ケイ』とそのままに近い無難な名前だ。
咲希は部活繋がりで始めたとかで『咲希』と本名のままだった。
少しずつ、玲菜の持つ情報を探りながら、フロウリアの起源や政治に関する部分なんかを聞き出しているうちに、危ないことはしない方がいいと止められてしまった。
やっぱオレ程度じゃ、300年以上のキャリアを持つ元聖女に腹の探り合いで敵うはずねーか……。
やっぱ玲菜には腹割って話す方がマシかもしんねーな。
こいつなら、全員救うとかそんな無謀な理想じゃない、現実的な妥協点を探せそうだしな。
『貴方達には貴方達だけが守れる人がいるでしょう?』
その文章に、オレは視線を上げる。
セリクはやはり、真剣な表情でペンを動かし続けていた。
『もしあの時、私に彼とゲートに飛び込む勇気があれば……って、今でも思うわ。貴方達には私の分も、その人達を大切にしてほしい。それに、元聖女は貴方達だけじゃないでしょ。このコミュニティには、こんなにもたくさんの元聖女がいるんだから』
玲菜の言葉に心が揺れる。
それは……、そうだ。
フロウリアを心配する元聖女は、オレや兄貴だけじゃない。
オレがやるべきことは、フロウリアを守ることじゃないはずだ。
セリクと兄貴とディアを守れるのは、オレだけなんだからな。
ここだけは、絶対にオレが死守しねーと。
はぁ……。
オレは内心で大きくため息を吐く。
ったく、本当に七凪ってやつは余計なことを知らせてくれたもんだよな。
これが八つ当たりである事はわかっているが、オレはそうする事でしか平静を保てそうにない。
なんだか精神的にとてつもなく疲労を感じて、ぐったりとベッドに体を預ける。
片手に握ったままのスマホは腹の上に伏せた。
ああ、疲れたな……。
ただオレは、セリクと一緒に居たいだけなのに。
……なんでこんなに難しいんだよ……。
顔だけで机を見れば、セリクは変わらない姿勢のままでペンを動かし続けている。
本当に、すげー集中力だな……。
オレは視線でセリクの輪郭をたどる。
ふわふわと撫で心地の良いプラチナブロンド。
セリクは頭を撫でられるのが好きだ。
撫でられた時の嬉しそうな顔は、見てるこっちまで幸せになる。
細くて長い首は、快感を浴びると大きく仰け反るのを知っている。
薄い肩と背中は、オレの愛撫に繰り返し震えて応える。
その下には、意外と締まった腹筋を備えた細めの腰に、スラリと綺麗な脚が続く。
滑らかな肌に包まれた足を抱え上げてやると、セリクは期待に満ちた瞳でオレを見つめるんだよな……。
……ああ、こいつを片時も離したくないのにな。
傷付けたくないし、危ない目に遭わせたくない。
もっと、……お前がなんの役にも立たない奴なら良かったのに。
そうすりゃ、遠慮なく安全な場所に閉じ込めておけるのによ。
お前はちょっと、有能過ぎるんだよ……。
オレはまた心の中でため息をついた。
眼鏡を外して、画面の小さな字を追う事に疲れた目をぎゅっと閉じる。
眼鏡を握ったままの腕を顔の上まで伸ばして、そのまま瞼の上に乗せた。
腕の重みと視界の暗さが少しだけ心を落ち着かせる。
しばらくそうしていると、腹の上でスマホが小さく振動した。
億劫な気持ちを無理矢理堪えて、オレは眼鏡をかけ直しつつスマホを開く。
届いていたのはコミュニティの通知ではなく、兄貴からのLINEだった。
『今からリビングで父さんに色々説明するから、蒼も下りておいで。一度に済ませておこうよ』
ああ、兄ちゃん達帰ってたのか。
もしかして部屋に声かけてくれたのかな。音消してて気付かなかったな。
……いや、多分、帰ったら速攻父さんにつかまったんだろうな。
二階に上がる間もなく……。
スマホには現在時刻が16:03と表示されている。
兄ちゃんのガイダンスって一日がかりだったんだな。
「セリク、オレ下に行ってくるから。悪ぃけど扉のロック外してくれるか? 部屋の遮音の設定も元に戻しといてくれ」
「あ、うん、分かった」
セリクはそう言いながらもペンを走らせている。
「キリのいーとこでいーからな」
「ん」
セリクの右手が速度を上げて何やら慌ただしく3行ほど書いてから、ようやく椅子が回ってセリクがこちらに向き直る。
「扉のロックはオレが出たらすぐかけ直しとけよ。オレが戻る時は声かけっから。オレ以外は入れんなよ」
「ケイ様も?」
「んー……、最悪父さんが兄ちゃんの声真似で侵入を試みるかもしんねーからな。オレの声なら、本物かどうか、まあ判断できんだろ?」
「ぇっ。う、うん。頑張る……っ」
セリクが一瞬顔を引きつらせる。
おい。自信ねーのかよ。
「愛のない言葉に騙されんなよ?」
「うええ、ハードル上げないでよぉ……」
「わかんねー時は鑑定使えよ」
「あ、そっか。そうする」
こいつ、頭は良いくせにこーゆーのはイマイチだよな。
まあそんなとこも、ちょっと抜けてて可愛いんだけどな。
……いや、違うか。
言われたとおりに、オレの声だけで判断しないとと思ったのか。
ったく、可愛い奴だな……。
立ち上がると不意に尿意を感じて、そういやセリクも部屋にこもりっぱなしだよな。と思う。
「一度トイレ行っとくか? オレが下までついてってやるよ」
「んー、じゃあ浄化してもらっていい?」
ああ、老廃物も不要物として浄化で消去できんのか?
利用範囲広いよな、浄化。
オレはセリクの下腹部に浄化をかけて、ついでにセリクのこめかみに唇を寄せる。
セリクはくすぐったそうに小さく笑う。
その少し恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔がまた可愛い。
けどペットボトルのお茶は全然減ってねーな。
つか一度も休憩挟んでねーよな、こいつ……。
午前中もずっとこうだったんだろ?
……戻ったら、無理矢理にでも一旦休ませるか……。
オレはセリクにしっかり水分を取るよう言い含めてから部屋を出た。
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