135 / 151
たどり着いたセリク
風呂を済ませてオレは2階への階段をのぼる。
ん? 魔力の気配がすんな。
ああ、ディアが兄ちゃんの部屋で魔力制御の練習してんのか。
母さんの話では、兄貴は初部活で疲れたらしく早々に部屋に引っ込んだらしい。
おそらくもう寝ているのだろう。
そうでなければ、いつもギリギリまで父さんの相手をしているからな。
大学の勉強もあるだろうに、兄ちゃんはすぐ人のことを優先するからな……。
部屋に戻ると、セリクはやはりオレが部屋を出た時と寸分違わぬ様子で机に向かっていた。
時刻は既に就寝予定の22時に迫っている。
そろそろ寝る支度をさせたいとこだが、嫌がりそうだよな……。
ひとまずトイレ対策に浄化だけでもかけとくか。
そう思ってオレはセリクに両手を向けた。
その時、セリクが小さく呟いた。
「これだ……」
なんだ?
「これだっ! アオイ!」
叫ぶと同時にセリクが椅子ごと振り返る。
「ぅおわっ!?」
オレは慌てて一歩後ろに下がった。
「わ、アオイこんな近くにいたの?」
驚いた。みたいな顔をするセリクに、オレは「周り見てから動け」と半眼で答える。
「じゃなくて、できそうだよアオイっ、聖女の体、作れそうっ!!」
「おう、でかしたな。流石オレのセリクだ」
嬉しくてたまらないみたいな顔で破顔するセリクを見ていたら、その頬を撫でずにはいられなかった。
そのまま目元に額に称賛の口付けを贈る。
「ん、えと……、話続けていい?」
困った顔をするくせに、口元が嬉しそうに緩んでいるのがまた可愛い。
「オレの膝の上でならな」
言って、オレはセリクをすぐそこのベッドへ促す。
セリクは握ったままのペンを慌てて置いてオレについてきた。
オレが壁を背にベッドに座ると、セリクはオレの膝にちょこんと腰を下ろす。
ああ、やっぱオレのセリクは本当に可愛いな。
「あのね……」と、セリクはソワソワした様子でこれまでの経緯を懸命に説明し始めた。
ふんふんと話を聞くものの、正直半分どころか大部分がわかんねーんだよな。
兄ちゃんならきっと、もっとわかってやれるんだろーにな……。
まあ、話してるこいつも全部わかってもらえるとは思ってねーはずだし、オレはセリクの頭を整理する相手として、話を遮らずに聞き続けた。
20分近く延々続いたセリクの話がひと段落したところで、オレは尋ねる。
「じゃあ後は何が必要なんだ?」
オレが手伝えるのはここからだ。
「何だろう、えっと……姿を変えるための術式を組み込んだ道具を用意して、なんかこう儀式的な手順を踏めるようにすれば……」
セリクはうーんうーんと考えながら話す。
「うん、そうだね。そういう儀式用の道具を作れば、ゲート無しでいつでも聖女の体を呼び出せるようになると思う」
姿を変えるっつーと『変身』ってことか。
セリクがこの単語を出してこないとこを見るに、フロウリアには変身の概念自体がねーのか?
「この国に、身体を別の姿に変えるような時の……何か、大勢が共通認識できるような儀式みたいなものってないかな?」
「あー……」と声を出したオレに、セリクが「無いよね、そんなの……」と続ける。
「いや、あるぞ」
「あるの!?」
セリクが信じられないものを見る目でオレを見ている。
そんな顔初めて見たな。飛び出さんばかりに見開かれた瞳がまた可愛い。
オレは愛しさに口端を緩めつつ話す。
「ああ、ある。しかも結構沢山、バリエーション豊富に。魔法少女か戦隊モノなら大概誰にでも通じるだろ」
むしろ日本人ならテレビだとかで一度も変身シーンを見たことのないやつの方が少数派なんじゃねーか?
「魔法……少女?」
「まあ今回なら魔法少女じゃなくて魔法聖女ってとこか」
「??」
首を傾げるセリクに、オレはスマホを取り出すと、日曜の朝からやってるアニメの変身シーンの動画を見せてやる。
「この国の奴らにはこうやって姿を変える『変身』って概念が浸透してる。こんな感じの変身アイテムがあれば、変身して当然だってくらいに、割と迷いなく信じると思うぜ」
「ふぇぇ……」
カルチャーショックで語彙力を失ってるセリクがめちゃくちゃ可愛いな。
オレは他にも変身シーンでヒットしたいくつかの動画を流してやりつつ考える。
変身アイテムか……。
戦隊モノだと腕になんかつけるようなのが多かった気がするな。
ライダーだとベルトって感じだよな。
今回は聖女になるアイテムだから魔法少女系のが違和感ねーのか?
魔法少女ってーと……なんだ?
ステッキ……、コンパクト……??
んんー…………?
最近のアニメでそんなん使ってんの見たことねーな。
オレの情報って古いのか……?
オレあんまこーゆーの詳しくないんだよな。
オレよりは兄ちゃんの方がまだ知ってるだろーけど、兄ちゃんもそこまでオタクじゃねーしなぁ。
「もっと色々見たい」というセリクにスマホを譲って、オレは学校用のタブレットを取り出して検索する。
んー。検索しても変身アイテムってあまりに色々ありすぎて、どんな風にすりゃいーのかイマイチわかんねーな。
ふと、去年に続いて同じクラスだった級友の顔が浮かぶ。
そういやあいつはオタクだったな。明日学校で聞いてみるか。
「それじゃ、オレはその儀式用に変身アイテムを用意すりゃいーんだな」
「あ、うん。頼めると助かる。材質はできれば……」
条件を並べはじめるセリクを一旦止めて、自分のスマホを取り返してメモを取る。
「よし、んじゃ今日はここまでにして寝るぞ。もう就寝時間過ぎてっからな」
オレの言葉に渋々従うセリクの、ちょっと尖らせた口元がまた可愛い。
「今夜もヤんのか?」
オレの問いに、セリクは嬉しそうに笑って「うんっ」と答えた。
っ……、その顔は、可愛すぎんだろ……っ。
オレとすんのが、そんなに楽しみなのかよ……。
いや、わかってる。
セリクは今、詰まってた問題がようやく解決できて嬉しいんだって。
けどそんな素直に可愛い笑顔を向けられると、頭でわかってても、やっぱ胸に響くんだよな……。
「はー……、オレのセリクがめちゃくちゃ可愛い」
思わず漏れた心の声に、セリクが白い肌を朱に染める。
その黄緑がかった瞳は既に期待を浮かべてオレを見つめている。
「そーだよな。セリクはすげー頑張ってたもんな。今夜は……いや、今夜も、たっぷり可愛がってやんなきゃな……?」
言いながら、オレは自分の手とセリクの全身に浄化をかける。
セリクはオレの手をじっと見て、それから嬉しそうにとろりと目を細める。
「アオイ……大好き」
囁いたセリクが、オレに唇を重ねてきた。
ほんの一瞬だけど、セリクの柔らかな唇がオレの唇に触れて、離れた。
……マジか。
セリクの方から、最中でもないのに、告白とか……。
しかも、キスとか……っっ!!
「……っ」
思わず熱くなった頬を手の甲で隠せば、セリクが少しだけ驚いた顔をして、それから笑う。
「アオイもそんな顔するんだ……」
オレはつい「うっせーな!」と乱暴に答えてしまってから、自分はいつまでもガキだなとこっそり反省した。
ともだちにシェアしよう!

