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屋上での邂逅

 終業の号令に被せるように響くチャイム。  音の終わりに揃いの制服を着た生徒達が椅子を引く音が重なる。  2時間目が終わって、次の授業はこのまま教室だ。  オレは高校の3階の教室から窓の外を眺めながら、今頃セリクは何してんのかな、なんて思っていた。 「芦谷」  かけられた声に窓から視線を移せば、オレが朝から協力を頼んだ級友の山本がいた。 「詳しい先輩に連絡取れたけど、今日の昼休みに屋上でいいか?」  スマホを掲げて山本が尋ねる。 「ああ、助かる。山本も一緒だろ?」 「もちろん」  頼もしい返事にオレは「ありがとな」と礼を告げた。  山本はすぐにスマホをいじる。  その『詳しい先輩』とやらに連絡してくれてるんだろう。  山本はオレと2年続けて同じクラスになった奴で、それなりに話はするし昼飯を一緒に食うこともあるが、大勢で遊びに行くことはあっても、互いの家までは知らない。そんな感じのクラスメイトだ。  山本はいわゆるオープンなオタクで、アニメやゲームの話を常にしている。  そんな山本に『魔法少女の変身アイテム』について尋ねてみたところ、紹介されたのが山本と同じ文芸部の先輩だった。  山本いわく「俺、魔法少女系は専門外だけど、部にすげー詳しい先輩がいるから紹介するよ」とのことだ。  別に紹介してくれなくてもいい。  代わりに話を聞いてくれるだけでいい。と思いはしたが、こっちが頼んだ以上、せっかくの厚意を無下にするわけにもいかない。  山本もついてきてくれるようだし、2人きりじゃないだけマシだろう。  そんなわけで、オレ達は4月の間だけ他学年や新旧の友達との交流を目的に昼休みの時間だけ解放されている屋上に集まることになった。  昼休み。  オレと山本は弁当を手に、屋上への階段をのぼる。 「オレ屋上くんの初めてなんだけど」 「実は俺も」  なんてあまり意味のない会話をしながら、オレ達は初めて足を踏み入れた屋上を見回した。  今月以外は締め切られている屋上に年に一度だけ入れる機会に天気の良さもあってか、生徒の姿はそれなり多く賑わっている。  スマホを見て「もう来てるらしい」と言う山本に続いて、そこそこ広さのある屋上を歩き始めると、声が聞こえた。 「あ、山本くん、ここだよー」  見れば、座りやすそうな段差に腰掛けたスラリとしたメガネの男子が、控えめに手を振っている。  なんとなく優しそうな、無害そうな雰囲気に、内心ホッとする。  いや『魔法少女にすげー詳しい文芸部の先輩』って情報しかなかったからさ。  なんかこう、もっと鼻息の荒い感じの奴が出てきたりすんのかなって……いや、偏見か。最近家で毎日父さんが鼻息荒くしてんのばっか見てたからか、無駄に警戒しちまったな。 「場所とっといたから、どうぞ座って」  メガネの先輩がオレ達に場所を譲るように横に移動する。  オレ達が腰を下ろすと、山本が口を開いた。 「芦谷、こちらが部活の先輩で3年の神代(かみしろ)先輩。魔法少女にすげー詳しい」  紹介されて、先輩は少しだけ恥ずかしそうにペコリと頭を下げた。 「こんにちは、初めまして。神代爽真(かみしろそうま)です」  ソウマ……って最近どっかで聞いたな。 「で、こっちが同じクラスの芦谷」 「芦谷です。神代先輩、今日は急に呼び出してしまってすみません。お時間作っていただいてありがとうございます」 「芦谷……?」  神代先輩はなぜかオレの苗字を唱えてから、軽く俯いて何かを考え始めた。 「先輩? どうしたんスか?」  山本の問いに神代先輩がようやく顔を上げる。 「あ、いや、別のとこでお世話になった人と同じ苗字だなって思っただけで……」 「へーそうなんスか。確かに芦谷って、田中とか山田ほどよく聞く苗字じゃないっスよね」  別のとこ……?  ソウマ……ソーマ……? って、……待てよ。 「それって、もしかして、芦谷圭斗……ですか?」 「え……。なんで……それを……」  マジか……。 「圭斗は、オレの兄です」 「えええっ!?」  驚きで先輩の丸っこいメガネがズレる。  この先輩、まさかのオレの前任聖女かよ。  世間が狭すぎんだろ。 「確か、緑の長い髪の清楚系聖女様……でしたよね?」 「そ……そう、です……」  神代先輩は肩をすくめて縮こまりながらも頷いた。  この人、自分で清楚系って認めたぞ。 「おい、何の話だよ」  まるで話が見えないだろう山本に、オレはスマホの写真の中からソーマ様の写ったものを開く。  これは兄貴がソーマ様の見送り前に撮っていた写真で、オレが前任の聖女の容姿について尋ねた時に送ってくれたものだった。 「ちょいこれ見て、この子、どんな印象?」 「うお、綺麗な子だなー。コスプレか? そうだな、清楚系。清純派って感じだよな。穢れを知らないって感じ? 守ってあげたいタイプだよな」  悪気のない山本の素直な感想が重なるたびに、神代先輩があわあわと狼狽えている。さすが文芸部、言葉数が出るな。 「そのくらいにしといてやれよ」  まだまだ言葉を重ねそうな山本をオレが止めると、山本は不思議そうな顔をした。 「じゃ、こっちはどう思う?」  オレはふと思いついて、自分の聖女の姿の写真を見せた。 「うっわ顔ちっちゃっ」  そう呟いた山本は、しばらく食い入るようにオレのスマホを凝視してから口を開いた。 「ひえー。可愛いなこれは……。衣装の完成度もめちゃくちゃ高い」  まあその式典衣装は本職が作ってっからな。 「うーん……小悪魔系にも見えるが、ツンデレ系ってのも捨てがたいな。あんま笑わない系キャラって感じだけど、これさ、たまーに笑うと皆落ちるやつだろ」  ニヤッと楽しそうな顔で山本が言う。  あー……。なるほどな。それであの笑顔スポットがある角んとこばっか人が詰めかけてたのか。 「どうした?」  なんか変なことでも言ったか? と首を傾げる山本に、オレは深く肯首して答えた。 「いや、納得した」 「それはお兄さんの写真ですか?」  神代先輩はなぜか敬語でオレに尋ねる。 「これはオレですね。先輩の次の年とその次の年をオレが担当しました」  そう答えてスマホを先輩の方に向けると、先輩は息を呑んだ。 「こ……このお姿は……っ! 歴代聖女の中でも圧倒的な式典動員数を誇るナンバーワン美少女聖女、アオイ様では……っ!?」  そんなもん誰が比較したんだ。  歴代っつっても写真や記録が残ってない聖女の方が圧倒的に多いだろ。 「えーと……。内容についてはともかくとして、オレが蒼であることはそうですね」 「ファンです! 握手してください!!」  勢いよく手を出されて、思わず身を引く。  山本は「え、なに? この美少女が芦谷? 芦谷ってコスする奴だったんだ?」と戸惑っている。  ついさっき、誰もが父さんみたいな奴じゃねーよな。って思ったとこだったんだが、先輩の鼻息は既に父さんと同レベルになりつつあった。  まあ、それでも勝手に触ってこねーだけ父さんよりマシか……? 「握手は……してもいーっスけど、とりあえず先に飯にしませんか?」  オレの提案に2人が頷いてくれたので、オレはようやく握ったままだった弁当を開いた。

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