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第1話

「ジロジロ見んなよ。気持ち悪い」 まとわりつく視線に気づいた男が、そう言った。 「あ、ごめん」 山田佐月喜は、自分の軽率な振る舞いを指摘され、即座に、その対象から視線を外す。 かれこれ2、3分、その男に視線を奪われていた。 ただ今、国語の授業中ーーしかも小テスト真っ只中。 あまり騒ぎ立てて、周囲に気付かれたら大変だ。 男はじーっと、怪訝そうにこちらを見ている。 山田は慌てて弁解した。 「いや、手足長いなと思って……」 「女子か」 「は、は、は」と、笑って誤魔化す。 目の前にいるこの男は、友人の神崎。 ーー神崎行成。 もう2年間同じクラスだ。 そして、山田の思い人である。 (神崎、怒った顔も可愛い…) 山田は幸せそうに、口元をにんまりさせた。 ーーちなみに、 「おいホモ、バラすぞ」 この通り、山田がゲイであることも、神崎に恋心を抱いているということも、 バレバレである。 神崎はシャーペンを器用にくるくる回し、黒板の方を向いた。 ーーバレた理由は、単純明快。 「お前、もしかしてホモ? 」と聞かれ、「うん」と頷いてしまっただけなのだ。 しかし、心優しい神崎はたとえそれを知っても、周囲には漏らさないでいてくれる。 (優しい神崎、大好き!!) 「ニヤニヤすんな、気持ち悪い」 勿論、態度は激変したけれど。 「あ」 山田はふと目を止めた。 彼の視線は神崎よりも遠く、後ろにあり、何か驚いた様子で、口をぽかんと開けてそちらを見ている。 気になった神崎も、振り返って視線の先を見た。 すると、窓際の一番後ろの席にいる男女がひっそりとキスをしているではないか。 「なんじゃありゃ」 神崎は言葉を漏らした。 まるで醜いものを見たという様に。 そしてそれを軽蔑するように。 最近、付き合ってるという噂の二人だった。 しかし、こんなところでそういった行為をするとは。 他の人間は気付く様子もなく、いや気付いたとしても、何も言えずに顔を背けていた。 「よそでやれよな」 そうぼやく神崎の隣で、山田はただひたすら、ぼーっと彼らの行為を眺めている。 そして一言、 「俺もしたいなあ……」 と言った。 神崎は顔をしかめて、「はあ?!」と声を荒らげた。

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