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誰も彼も「御月堂様」と呼ぶ。 それは当然といえよう。何せ、誰もが羨望し、敬れる立場なのだから。 だが、それでも嫉妬、憎悪を向ける者も中にはいた。それも当然といえる。 そういうものは付き物だ。この身が尽きるまで絶えない視線だった。 そんな世界で生きている。 ところが、代理出産として依頼した者は畏怖の念を込めて呼んだ。 初めてのものだった。 それは第二の性が大きな要因かもしれない、と後々になって分かったことだが、今まで向けられてきたのとは違うものに心を動かされるものとなった。 ただ"仕事"を全うしてくくればいいと思っていたのとは裏腹に、お腹にいても外の音は聞こえている。だから、後継ぎの子に会いに行ったらどうかと松下の薦めもあって、仕事の合間に何度か会っているうちにその者から呼ばれる「御月堂様」は、躊躇いがちであるものの、心地良く感じられるものへとなっていた。 もっと呼んで欲しい。その声で。 誰もが呼んでいる呼び方では、そのうちの一人のように感じられて特別感がない。 その呼び方ではない呼び方はどうだろうか。 「慶様」 優しく、耳心地良い声で呼ばれる。 初めて呼んだ時は戸惑いと躊躇いがあった。 それはそうだ。急にそう呼ぶように言ったのだから。 だが、何度か呼んでいくうちに戸惑いが拭えず、恐る恐るだったものが、呼びたくて仕方ないというような嬉しさで弾ませた声音で呼ぶ。 愛おしい。 「愛賀」 応えるようにそう呼んでみせた。

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