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バンッと叩きつけるように扉を開く音がし、どちらともなく跳ね上がった。 愛賀とほぼ同時に急いで見ると、こちらに駆け出す大河の姿があった。 「た、大河⋯⋯。お風呂から上がってきたの」 よじ登ってくる大河を手助けする形で脇を抱えた愛賀との顔の距離が近くなった瞬間、キスをした。 「⋯⋯ぇ⋯⋯⋯」 小さく口を開けたまま、まるで石像のように動かなくなった愛賀に抱きついた大河は、頬ずりしていたかと思えば、こちらを見やる。 まだ表情を出すのが難しいらしい子どもであったが、状況が状況だからか、得意げな顔をしているように見えた。 「⋯⋯分かっててやってるな⋯⋯」 子ども相手に、ましてや愛賀が愛してやまない息子にするべきではない態度ではないと、皺を寄せそうになった眉間を辛うじて痙攣させることで留まった。 「ま⋯⋯ま⋯⋯」 「⋯⋯どうしたの?」 「だい⋯⋯す⋯⋯っ、き」 「ふふ、ママも大好きだよ」 そう言われた途端、花開くように微笑みかけた愛賀は抱きついてきた大河を抱きしめ返す。 急に無遠慮に入ってくるリスクは考えられた。しかし愛賀のまた違った表情が見られたのなら、結果として良かったといえよう。 「あ⋯すみません。大河が急に来てしまって⋯⋯」 「いや、構わない。では私はここで帰ることにしよう」 立ち上がった時、「慶様」と呼ばれた。 「どうした」 「あ⋯⋯あの⋯⋯慶様、大好きです」 恐らく大河だけでは申し訳ないと思って言ったのだろう。だが、大河がいる手前そう言うにはリスクがあるだろうに。 しかし、目を見開くには充分だった。 「⋯⋯ああ、愛賀、私もだ」 染まる頬に愛おしげに口付けた。 途端、頬を緩めた。 本当に愛おしくて堪らない。 ずっと眺めていたい。 が、そんな雰囲気を大河からの容赦ない拳が脇腹に衝撃を食らったことですぐに霧散された上に、しばらく動けなくなり、愛賀を心配と申し訳なさでいっぱいにさせ、自身の行ないを果てしなく愚かだと罵るものとなったのであった。

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