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第一章-4

 獅旺と白原は、寮の裏口から外に出ると、数メートル先にある大きなコンテナに向かった。  大型トラックの荷台のような建物は窓もなく、入り口はひとつだけだ。中はバストイレつきの1Kとなっている。  白原は金属製の厚い扉をあけると中に入って明かりをつけ、獅旺と夕侑を入れてから扉に鍵をかけた。 「服を脱ぐんだ」  獅旺がベッドの前に夕侑をおろして、自分もブレザーを脱ぎながら命令する。  夕侑は後ずさった。 「どうした? 俺たちに脱がせてもらいたいわけじゃないだろう」  尊大な態度は、夕侑に自分の立場を思い出させる。  アルファとオメガ。獅子族とヒト族。上級生と下級生。御曹司と孤児。どれを取っても、夕侑に逆らえる要素などない。  羞恥と怒りに顔が赤くなり、惨めさに涙がにじむ。しかし、このままフェロモンをたれ流しているわけにもいかない。  仕方なく夕侑は着ていた学校指定のジャージを脱いでいった。下着を取ると、貞操帯ともうひとつ、太い首輪だけになる。  首輪はうなじを守るためのものだった。  オメガはうなじにフェロモンを分泌する(ふくろ)を持っている。  ここをアルファに噛まれると、嚢が破けてアルファの唾液とフェロモンの成分が結合し、オメガの体質が変化する。噛んだ相手と番になり、フェロモンはその相手にしか作用しなくなるのだ。  学園の生徒と勝手に番にならないよう、夕侑の首輪は頑丈なカーボンファイバー製で、鍵もついていた。その鍵は神永が厳重に保管している。  夕侑が身を縮こめながらベッド脇に立つと、獅旺が一歩近づいてきた。反射的に一歩さがる。夕侑の態度に、獅旺の片眉があがった。 「お前はいつも、俺をさけるな。前の訓練のときもそうだった。俺は今までそんなふうに、他人にあからさまな嫌悪を向けられたことがない。どうして俺がそこまで嫌いなんだ?」  獅旺が単純に不思議そうな顔をした。  彼ほどの人物ならば、尊敬や好意、悪くてもお世辞や媚びぐらいしか受け取ったことがないのだろう。 「……獅子族は、怖いんです。……昔、怖い目にあったから」  怖い目、とオメガが言えば、それは大抵性的なことになる。獅旺は目をみはり、それから凜々しい眉を不愉快そうに歪めた。  どこの誰かはわからぬ同族の咎に、それ以上は聞かず白原に顎をしゃくる。 「なら、ユキヒョウは怖くないのか」  ユキヒョウ族の白原がこちらを見て、ニコリと微笑む。夕侑は小さくうなずいた。 「じゃあ、僕がしてあげよう。獅旺は残念だけれど、見てるだけだね」  白原は獅旺に優越を含んだ笑みを見せると、夕侑の横にきて腰を抱いた。  獅子とはまったく違う爽やかなアルファフェロモンにクラリとくる。すると、抱かれる期待が全身をおおっていく。尻の狭間がうるむのがわかった。オメガは性行為を予感すると、後孔が濡れる。  はしたない身体。だらしない本能、あさましい欲望。オメガの性が心を蝕んでいく。  夕侑は悲しみをこらえながら目を伏せた。  白原の顔が近づいてきて、キスをされそうになる。その瞬間、横からグイッと腕を強く引かれた。 「──ぇ」  いきなり獅旺がふたりの間に割りこみ、夕侑をさらっていく。ベッドに押し倒されて、唇が重なった。 「──んんッ」  何をされたのかと目をみはる。  獅旺は大柄な身体で夕侑にのしかかり、深く口づけていた。熱くて肉厚な唇が押しつけられ、ひらいた口に舌がねじこまれる。乱暴な仕草は、夕侑の発情をビリビリと刺激した。 ●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・ 試し読みはここまでになります。 続きは各書店で好評発売中!

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