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第11話

「リヴェラ様はいつまでも子供だと思っていたので、こんな日が来るなんて喜ばしいかぎりです。いや、今も充分子供っぽいですけれど」 グロウがそう云うと、リヴェラは横目で睨んだ。 「ほら、そういうところが」 そう云って笑う。 いつまで経ってもグロウにとってリヴェラは幼い頃の子供のままなのだ。 「で、何がそんなに不満なのですか?」 「あいつは姫ではなく王子だった」 「あらら。でも男子であろうと婚姻も出産もできることだし、問題ないはずですよ。まぁ異性を恋愛対象や婚姻相手に選ぶ割合の方が圧倒的に多いことを気にされているんですかねー」 「世間体を気にしているんじゃないんだ。女子の方が好みなんだよ、俺は」 「はーそうですか」 グロウにとってはリヴェラの悩みなど大したことではないらしい。 少数派だというが、伴侶に同性を選ぶことに誰も批判しない世界。なぜこうなってしまった。この世のどこもかしこも狂っているとさえ思う。 「男子が嫌で、好みのタイプではないのなら、他に姫のどこがそんなに嫌なのですか?」 「姫じゃなくて男だし、あいつの性格が嫌だ」 「穏やかでお優しそうな方だと見受けられましたが」 「食えない奴だ。俺をおちょくって、楽しんでいるんだ、あいつは」 「確かに。リヴェエラ様はいちいち反応されるので、からかうのは楽しいですから」 ころころと笑うグロウに対して、くそー、どいつもこいつも。俺をコケにしやがってと、ふてくされる。 歳が離れているせいか年上の余裕で、子供扱いしてくるところも嫌いな点だった。 「他に何か悩み事がおありのようですね。何なりと仰ってください。他の者には内密にしておくので」 何かを察したのかグロウにそう訊かれ、云いにくいけれど小声でこっそりとグロウにだけ伝えた。 「子ができたと云って卵を見せられた」 「では尚更。つがいを持つことはいいに越したことはございません。早々に子を成したのであれば、幸運ではございませんか」 「う……ん」 悩まし気に唸る。 やっぱりリヴェラは乗り気ではないと見えるとグロウはきっぱりと云い切った。 「リヴェラ様には元より選択権はございません。これ以上はない好条件の政略結婚なのですよ。断ると国同士の軋轢を生じかねないのでやめていただきたい」 やっぱりそうかと、がっくりと肩を落とす。 どうにもグロウにはかなわない。いかに王といえど、自分の立場は弱いようだ。 夕刻になった頃。今日の成すべき仕事をすべて片付けて私室に戻ってくるなり、にこにこ顔のシファに出迎えられる。 「あっ、お帰りなさい」 憂鬱だ。この顔を見ているだけで憂鬱になる。ひとの気も知らないで。 リヴェラは露骨に嫌そうな顔をした。 「なぜ俺の私室にいる、入っていいと許可した覚えはないぞ」 「私の部屋にいらしてくれないだろうと思い、先回りして来てしまいました」 __________あの部屋はいやだ。媚薬の香の匂いがキツいし、昨夜の出来事を思い出すから。 そんなことを面と向かって云えるはずもなく、リヴェラは視線を逸らせる。 「……帰ってくれないか」と思わず心の声が漏れ出したのに、シファは それとなく聞き流して、何が楽しいのか上機嫌で浮かれまくっている。 「もう、待ちくたびれましたよ。いつまで経ってもリヴェラ様がいらっしゃらないから」 「ずっと前からここにいたのか、もしかして一日中?」 「ええ、他にやることがなくて退屈していたので、掃除していました」 手に雑巾を持っている。部屋の隅には水の入った桶と箒もあった。 せっせと部屋中を拭き掃除、掃き掃除と勤しんでいたようだ。 嫌な予感しかしなくて訊いてみれば、居ない間に勝手に部屋の中を……。 別の意味で、つくづくヒトの嫌がることを進んでするような人物だと思う。 「……そんなもの、侍女に任せておけばいい」 「いえ、神事では掃除は日常茶飯事、基本ですよ。ごく当たり前のことなので、気になさる必要がないですよ。お構いなく」 そう云ってシファは何事もなかったように扉を開けて、清掃用具を部屋の外の廻廊に出した。後で侍女らが回収しに来るのだろう。 リヴェラの私室は持て余すほどの広々とした空間だった。 よく磨かれた黒々と光る大理石の床。 部屋の中央に天蓋付きの大きな寝台があり、キャビネットやチェストなどの調度類がすべてモノトーンに統一されていて重厚感があるつくりになっている。塵ひとつないくらい、きちんと清掃が行き届いている。 壁にはタペストリーが掛けられ、堂々とした風格のある蔦や葉をモチーフにしたレリーフがところどころに飾られているものの、王の私室としては豪奢というよりもシックで大人しすぎるくらい落ち着いていて、この部屋もあまり物が置かれていない。 「お身体の加減はいかがです?」 「今日一日無理なく過ごせたし、どうでもいいだろ。お前には関係ない。そもそも無理をさせたお前が悪いんだろ」 リヴェラの頬に手を添え、顔色を確かめたシファは笑い出す。 「ははははっ。そうでしたね。でも、あなたも悪いんですよ。お互い様ですよ」 「俺が悪い?冗談だろ」 「あなたがあまりにもかわいらしくて、行為を止められなかった」 「かわいいって云うな。くそっ」 実年齢よりも幼く見えることをリヴェラは気にしている。 かわいいって云われるのも子ども扱いされるのも大嫌いだ。 もしかして、かわいいと云われたことは行為に関してかと気付いたときにカッと頬が熱くなる。 「勝手にひとのせいにするな……」 すっかり機嫌を損ねつつも、いいようにされた昨日の痴態をこれ以上引きずるわけにはいかない。リヴェラは話題を変える。 「……そういえば。さっきの、さっきの卵はどこにある?」 訊きたくもないいが、訊かなければならない。 一応、自分たちが結びついてできた子供なのだから無碍にはできない。 「そうそう。ここに置いておきましたよ」 布で台座をつくり、シファが産んだとされる大きな卵は窓際に鎮座していた。 今日は天気のいい日だったので、一日中日光浴をして温まっていた。 「そもそも、こんな場所に置いていいものなのか?」 「いいと思いますよ。ぽかぽか陽気で気持ちよさそうにしていましたから」 分かるのかよ。と、リヴェラは毒づく。 「鳥や爬虫類のようにひと肌で温めるのが正解なんじゃないのか?」 「あー、そうかもしれませんね」 のんびりとシファは構える。これで大丈夫なのかとリヴェラは心配になってくる。 「少し、大雑把すぎやしないか」 「え、こんなものなんじゃないんですか」 仮にもひとつの生命体が詰まっているのだし、もっと、こう大切に扱うべきなんじゃないのか。と、あまりにも扱いが雑すぎることを進言しようか、どうしようか迷っているうちに卵に変化が起こる。 ピキピキと何やら音がする。どうやら内側から聞こえてくるようだ。 何だろうと眼を凝らすと、卵に大きな亀裂がはしる。 「あっ、生まれそう」 バリバリ殻を突き破って現れたのは ______________人外!? そこにいたのは人間の胎児くらいの大きさで、コウモリのような黒い羽を持つ奇妙な生き物。眼つきの悪いギョロリとした眼。しかも黒い鱗に覆われた長い尻尾も持っている。 爬虫類とコウモリのキメラなのかコイツは!? 生まれたばかりなのにバサバサと羽を動かし飛んでいる。 これを産んだのならコイツはヒトならざるよく分からない生き物だったということになる。

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