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33. リゼルハイドの姫たちへ

やわらかな木漏れ日が差す穏やかな午后。春なのにまだ肌寒く、風が冷たい。 この日の空は淡く、雲一つない晴れた空だった。 シファがアズカヴァルに来てから二か月が経とうとしていた。 まだ二か月しか、という気もするが、もう二か月か、とう気もする。シファがしつこくリヴェラにアプローチした甲斐(かい)があってかリヴェラも次第に心を許し、いつの間にか傍らにいるのが当たり前のように感じられる存在になっていた。 木々が生い茂る王宮の庭園をリヴェラとふたりで散策して、シファはアーモンドの木の前で足を止める。 立派な枝ぶりで小さなピンク色の花をたくさん咲かせている。今が見頃なのだ。 「可憐なピンク色の花を見ると思い出します。妹たちが生まれたときに桃の花の木を植樹しました。しなやかで、たおやかな樹木のようにこの子たちも強くて、生命力のある子に育ってほしいと願いを込めて植えられたものでした」 シファは遠くを見つめるように妹たちへと想いを馳せる。 アズカヴァルの隣国である、シファの祖国であるリゼルハイドに妹たちは棲んでいる。 シファにはアーシャ、サーシャー、コーシャ、ターシャという名前の四人の妹がいる。シファよりも七つ年下の十九歳で、リヴェラよりもひとつ年上になる。 銀色の長い髪。サイドには天珠のような模様があしらわれた長細い樽型のビーズをサイドに五つづつ付けている。天真爛漫な美少女だが、顔立ちはシファとそんなに似ていない。 「はじめて出会ったとき、私とあなたが決闘して勝てばあなたは私のものになってくれるということを同意してくれたわけですが、それは妹たちであったとしても例外ではなかったのでしょうか?」 「それは、そうだな……」と、リヴェラは言葉を濁す。それは肯定を意味する。 そもそも当初、リヴェラは四人の姫のうちの誰かひとりを妃に娶るつもりだったからだ。 リヴェラにとって、それは薄れゆく記憶だった。 隣国のリゼルハイドと繋がりを持つための手段ということで、今となってはそういえばそんなことも云っていたなという程度のことだが……。 シファは根に持っているのだろうか。 「妹たちはとても強い。あなたでもかなわないくらい」 シファがいつになく深刻な表情を浮かべ、話しはじめる。 「……それというのは神学校に通っているときに、とにかく食い意地が張りすぎていて、さまざまな能力が開花される機会に恵まれたからなのです」 シファは神官であり、妹たちは巫女である。 リゼルハイドの王族である彼ら一族は代々神職に就いており、避けては通れない道であった。 (だだし、彼らの父であるマールテン国王だけは例外であったが) 巫女や神官になる者は神学校に通う習わしになっている。 大抵が貴族や王族の子供がなるものと決まっており、全寮制である。 学生寮は修道院を利用し、男女別にそれぞれ寮母(に扮したシスター)が置かれ、規則正しく質素な生活を強いられる。 朝六時起床。顔を洗い、身支度を済ませ、掃き掃除、拭き掃除とはじまる。 いかにやんごとなき身分であろうと関わらず、扱いは皆平等なのだ。 ゆえに彼らは贅沢三昧の生活から規律正しい寮生活への落差に驚き、苦戦する。 制服というものはというと、へいぜいは男子は白い法衣で過ごし、女子は白い巫女服で過ごすことになる。 男子の服装はフード付きの白いコートで、女子の服装は白い紗の生地の上衣に布の帯で締めたハイウエストのスカート。 入学時は華美で色とりどりのドレスに身を包んでいた女子たちも、すっかり学園の色に染まって清楚で慎ましく暮らしてゆくのだった。 妹たちにとっては、規律に対しては大したことなかったらしい。ただ食生活にこと困った。 毎食、ワンプレートにパンや雑穀、サラダと盛られる量は人並以下である。 ちょっとダイエットしている女子がちょうどいい量しか与えられないのだ。 ただでさえひとより食べる育ち盛りで、大食漢の彼女たちには到底足りない量。 デザートと呼べる甘味は週に二度しか出ない。 それも大抵は果物だ。リンゴとバナナの登場回数が多い。 四姉妹が知っているバナナといえば……彫刻され、籠に見立ててくり抜かれたメロンの中にたっぷりのフルーツ______________苺やラズベリー、葡萄、その中に輪切りのバナナも少し入っていた。その程度しかバナナを見たことがない。 知らなかった。輪切りになっているものがバナナの全貌だと思っていた。 週に一回やっと出たオヤツのバナナを見て、黄色い皮がついていて棒状のものだとこのときはじめて知った。 大切に食べようね、とぎゅっとバナナを抱きしめて、ゆっくりとよく噛んで食べた。 蝶よ花よと育ち、何不自由したことがない。なにせ王族だ。 王城の食事は毎食大皿やトレイにたくさんの料理が並べられ、あれもこれもと目移りする種類の料理が毎日豪華なビュッフェ形式で提供され、どうぞどうぞ何でも好きな物を好きなだけ召し上がってくださいと肉料理も魚料理も用意される。 それも種類、部位、調理方法も多岐にわたり、デザートも常時五種類は並んでいた。 お腹いっぱいになってフルーツ、またはカットフルーツを使ったデザートまではたどり着けなかったのだ。これまでに、いかに贅沢な暮らしだったかを思い知る。

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