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34. 神学校(寮)での掟

神学校の寮の食事で多かったのはマッシュポテトとスクランブルエッグ。あと豆。 これが手を変え品を変え、これが嫌というほど出てくる。豆嫌いだと本気で詰む。 大豆、小豆、そら豆、いんげん豆、えんどう豆、いんげん豆、レンズ豆、ひよこ豆、金時豆、 ありとあらゆる豆が出てくる。 豆はただのタンパク質の塊だ。オヤツでもおかずでもない。肉でも主食でもない。 あとはみんなの嫌いな茹ですぎたブロッコリー、山盛りのグリンピースもよく出てくる。 なぜこんなにクソまずいモノばかりを毎日大量に作られるのだろうか。 そこそこ質素な食事に慣れていても、「これはないわ」というレベルのモノ。 元・平民であり、家がお金で爵位を買ったという女子でさえ、こんなモノはブタ箱のクサイ飯と同じよ!!と激怒していた。 (お前はブタ箱のクサイ飯を見たことがあるのか、というツッコミはあえて伏せておこう) 「何で宗教ってさー、質素倹約で清貧の心なわけ?」 「規則正しい生活に、清く正しい心が宿るからじゃなかったっけ」 リゼルハイドにいたときからこれは切実なテーマだった。 問いかけにシファが答えると、どうでもいいわ、と妹たちは一蹴する。 世間から隔離され、閉鎖された空間。郊外にある学び舎には娯楽など何もない。 私物で本の持ち込みも禁止されているし、図書館もなかった。 妹たちは落とし物のロマンス小説をみんなで回し読みして、擦り切れるまで読んだ。 そんなわけで、物が少ない環境というのは物のありがたみが分かるというものだ。 単純に話が面白いから夢中になるのだが、恋愛の指南書としても足りない知識や経験を補うために重宝された。 まだ若い彼らなのだから恋愛や恋バナに興味津々なのは仕方のないことだ。 「ああ、そういうのなら俺もあったな。男子寮で誰が持ち込んだのか、エロ本が投げ込まれたことがあった」 シファは思い出す。(普段、妹たちの前でのシファの一人称は「俺」なのだ) 裸でえろい表情をした女がポーズを取ったり、あらわに局部を晒し、致しているところが余すことなく描かれていた。 誰が持ち込んだモノなのか、猿山に餌を投げ込まれた如く男子たちはエロ本を囲んで群がり、口々にえっろいだのスゲーだのと猥談で盛り上がった。 低俗な話題に軽蔑していたわけではないが、シファは遠く離れた場所から冷静に様子を見つつ、誰もいなくなった頃合いを見計らって好奇心があって本の中身を見てしまった。 実写と見紛うばかりの緻密な筆致で写実的に描かれた裸体はリアリティーがあって刺激が強いものだった。男であることがつくづく嫌になった。 「何よそれ、サイテー!」「女の敵!」「そんなんで聖職者になろうとするな!」「持ち込んだ奴、滅びろよって思うよ!」 妹たちは非難轟々で、責め立てる。 「そ、そんなに云わなくても」 「なによっ、兄様はそいつの肩持つつもり!?」 「そ、そんなことはないけど」 自分も中身を見てしまったのだから同罪だ。強く云えなかった。弁解しようとして うろたえて、変な汗をかいてしまった。 神学校は十三歳から二十歳までのうちの最低三年間は通わなければいけない。 妹たちは十三歳から三年間通い、シファは遅めに入学して三年間の就学を終え、勉強熱心なのでさらに専門課程の就学へと進んだ。 ということで、奇跡的に神学校にいた期間が被っている。 男女ともに寮には大浴場があり、外に露天風呂があった。 男湯と女湯を隔てる長い壁があって、(清掃時間の後などの)人のいない閑散とした時間帯に壁の向こう側同士に立って、密かに男女が逢引きして会話を楽しむ場所だ。 男女は学校の校舎も寮も別々(どちらも隣同士に建てられているが)。男女交際禁止どころか、会話すらも禁止されている。 七つ違いの兄妹だが仲がいいので、シファは妹たちと度々ここで待ち合わせして兄妹水入らずの時間を過ごし、大浴場の壁越しに情報交換を行っていた。 「あの壁の上によじ登って女風呂を覗きに行った奴らがいて、誰か来ないか見張りをさせられたことがあったっけ」 シファは過去の出来事を思い出し、うっかり口を滑らせてしまったことを後悔した。 マズイ、また余計なことを云ってしまった。妹たちの視線が痛い。 「犯罪だよ、ソレ!!」 「……いや、恐い先輩に脅されてて仕方なく」 「先輩なんていないでしょう!?何、その架空設定!そんなのいらない!!」 兄としての立場がなかった。がっくりと肩を落とす。 すっかり妹たちから軽蔑されてしまった。 実際に覗きをしていた不届きな男子も多かったのも事実だ。 四姉妹は寮の食堂で同年代の女子たちとよくおしゃべりに興じていた。 周囲の女子たちはアーシャ、サーシャー、コーシャ、ターシャたち四人が王家の姫ということを知らない。 貴族や王族が多い環境といえど、平等な扱いを受けるために教師にさえ身分は明かされていないのだ。

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