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35. 食への執着
寮に入って半年もすると、この環境にも慣れて飢餓状態になっていて野性味が溢れくる。
「ああ、婆やの淹れてくれたロイヤルミルクティーと生クリームたっぷりのパイが食べたいわ~」と云い出す貴族の女子が出てくる。
嫌味でも自慢でも何でもない。寮に出てこない嗜好品が強烈に恋しいだけだ。
周りは全員貴族の娘たちだから、分かる~と首がもげるほど同意してウンウン頷く。
「私は砂糖をまぶした揚げたてのドーナツとチョコレートをたっぷり溶かしたチョコラショーがいい!」
「生クリーム増し増しのプティングも捨てがたい」
「レトロといえば聞こえがいいけど、古すぎて馬鹿にしていた黄色いモンブランとババロアと昔くさいバタークリームの塗られたしつこいくらい重たいケーキが恋しい」
とにかく糖分も脂質もカロリーも全部度返 しして、何でもいいから
ギルティーなものが食べたくてしょうがない。
女子の大半は甘いお菓子が大好きだ。
あれが食べたい、これが食べたいと思いつくかぎり好きなスイーツの種類を挙げまくる。
いつもその連想ゲームが異常なほどの盛り上がりをみせる。
お菓子には卵、バター、生クリームがふんだんに使われている。
それらを使った贅沢品は禁止されている。スイーツそのものが庶民から見れば高価な嗜好品で原料そのものも高額という理由でだ。ついでにはちみつやミルクも禁止されている。
「あ、でも。外部から差し入れで貰うお菓子だけ特別に許可されているわ」
「じゃあ、家から差し入れればいいんじゃないの?」
「それはダメなのよ。身内じゃなくて、あくまでも教会を支援する人から善意で貰わなければいけないらしいわ」
「えーでも、卵とかミルクとかバターってそれなら寮の食事で何度も出なかった?」
「そうそう。コーヒーに入れてあるミルクとか」
「違うよ、あれはミルクでもなんでもないのよ」
「じゃあ、何なのよ。恐ろしいこと云わないでよ」
「コーヒーフレッシュって呼ばれていて、あれは植物の油と水を合わせて攪拌 したモノで」
「何で白いのよ」
「攪拌しているから!」
「攪拌て、何?」
「素早くかき混ぜることだよ」
「バター(動物性油脂)じゃなくて、マーガリン(植物性油脂)だし!」
「なんでこんな錬金術みたいなしちめんどくさいことしているの、うちの寮」
「ええっ、知らなかったの、寮の食事って精進料理だったんだよ」
寮に入って半年後、料理の殆どが実は大豆を使った加工品だったことを知る。
殺生はダメだから動物性のもの____________肉、魚、卵、乳製品を食べてはいけない決まりとなっていて、そこで代用されるのが大豆だ。
大豆は別名畑の肉と呼ばれている。タンパク質が豊富で脂質も高く、栄養価が高い食品である。その加工品はエグイくらい豊富で、なんでも作れる。
大豆の絞り汁である豆乳は牛乳の代用品で、チーズ、バター、生クリーム、ヨーグルトも作れて。絞りカスである、おからだけでケーキ、クッキー、ドーナツ、かりんとう等のスイーツができてしまう。
よく出ている唐揚げはおからでできていた。大豆ミートと呼ばれていて、唐揚げは悔しいけど本当に唐揚げの味がした。
「いつも出ていたスクランブルエッグも大豆から出来ていたし」
「ええ________________ええ_______________」
「あれ卵じゃないんだ!!」
「南瓜 と豆腐と豆乳でできているそうよ」
「混ぜたらそうなるんだ。えええ__________________」
「このお土産の銘菓のスイートポテトだって、大福豆できているの」
「芋を使ったスイーツは芋でよくない!?」
「もうこれ以上、豆の可能性試さなくていいよ!!」
「なんかアレルギーとか、グルテンフリーになっていいらしいって」
「やかましいよ。そんなの気にして食べ物食べたことないよ!!」
「もしかして、この机もテーブルも全部大豆で出来ているの!?」
「そんなわけないでしょう!!」
こと、寮生活においては食に不自由していた。
寮に入ってからはお腹いっぱい食べた記憶がない。
どう考えても毎食食事が余るはずなのに淑女がはしたない、卑しいと何やかんや理由をつけられておかわりも禁止されていた。
「ダメ、お腹が空き過ぎて眠れない」
眼が回りそうな空腹感。ぐうぐう腹の虫が治まらず、夜中に眼が醒めてしまった四姉妹はベッドから抜け出して、寮の厨房に忍び込むことにした。食べられそうなモノを探して盗ってこようとした。
“おおよそ一国の姫君のすることではない”
誰もがこう云うだろう。
__________リゼルハイドで四姫と呼ばれた姫たちがこんなコソ泥のような真似を……!!
真っ暗闇の中、厨房をひっくり返すようにガサゴソ食べ物を探していると
「だ、だれだ、そこにいるのは……!」
巡回の警備の人間に見つかりそうになって慌てて逃げる。逃げ足だけは早く、廊下を走りながらとっさに姉妹はチューと鼠 の鳴き声を真似る。すると。
「なんだ鼠か、いや猫かもしれないな?」
暗闇でよく見えないことが幸いして、動物だと信じ込んだのだろう。
警備員がそう云うと、とっさにニャーと猫の鳴き声を彼女らは真似た。
おかげで姉妹たちは鼠や猫の鳴きマネも上手くなった。
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