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36. 才能の開花へ
「だめだ、これだけしかなかった」
四姉妹が厨房をひっくり返すようにあれだけ探し回って見つかったのといえば、タマネギ一個とニンジン一個とじゃがいも一個だけ。
「何かカレーの材料みたい」
「えっ、カレー!食べたい!」
「シッ、静かに」
「とりあえず、具材に火を。ニンジンは生でも食べられるかもしれないけど、タマネギ、じゃがいもは火を通さないと食べられよ」
それらの野菜をバーベキューのように金属の串にぶっ挿して、魔法で手から炎を出して炙る。
みんなが寝静まっている真夜中。
寮内の使われていない部屋に移動した姉妹たちは、がらーんとした空スペースの部屋の隅に屈んで四人は交代で作業をやっている。
ひとりが串を持つ係で、あとの三人がひとりづつ順番でバーナーのように掌から炎を出してひたすら当てまくる。
「手が疲れてきたよ、代わってー」
燃焼系の魔法はすごく体力を消耗する。火力が足りないのだ。
なかなか火が通らないので苦戦した。
少しでも早く火を起こそうと工夫して、どうしたらいいか考える。
串に刺さった野菜は小さく切れば早く火が通るだろうが、あいにく包丁のような刃物はなくて野菜が小さいと串には刺さらないからサイズはそのままにしてある。
「どうしたらいいんだろうねー」
「魔法はイメージが大事だって云うよね。そうだ、家一軒燃やすくらいの勢いでやろうよ」
「オッケー、まかせといて」
その過激な発言が功を奏し、想像力を働かせて格段に火力が増した。
この出来事がきっかけになり、おかげで炎系の魔法が得意になった。
ボヤ騒ぎにならない程度に加減して全開で火をくべた結果。
バーベキューのように串に挿した野菜は表面が黒焦げで生焼けだったが姉妹たちはモグモグ食べて、「火を通すと野菜って甘くなるんだねー」ということを発見し、塩もなにも調味料がなくても野菜の旨みを感じられるようになった。
四姉妹はとにかく食に飢えていた。食のためなら何でもするというスタンスでいた。
と、そこでこれからさらに能力が開花する決定打となる出来事が起こる。
● ● ●
「うわー、なんてモノを寄越してくれたんだよ!」
シスター長が頭を抱える。(彼女は寮の総監督的な立場の人間である)
あるときだった。ここを訪れた去る貴族の老紳士からケーキを差し入れに貰ったのだった。だが、これを寮にいる全員に分けるとなるとなれば……。
生クリームのシンプルなデコレーションの丸いケーキ。
ワンホールをここにいる三、四十人で割れば、当然ひとり当たり口にできるのはアメ玉ぐらいの大きさになるだろう。
包丁を入れればぐっちゃぐちゃになって、食べ物といえる形を取れるかどうか。
たわけという言葉が思い浮かぶ。(田分け=狭い田んぼを複数の親族が分割して相続して、使い物にならなくなったことが語源らしい)
ケーキを切り、食器を食器棚から出し、テーブルに並べ、その上食べた後は食器を洗い、布巾で拭いて食器棚に納めなければならない。ここまでが仕事。
あっ、ケーキを食べたら飲み物も所望することになるだろう。人数分のグラスを出し、飲み物を注いで、また人数分の洗い物が増えて、うわ~。
ここまでの労力がかかることをなぜ想像できない!?
これだから貴族は!!男は!!と偏見にまみれた固定概念で激怒した。
シスター長は気が短くキレやすい性格だった。
さて、これをどうしよう……?ケーキを前に途方に暮れる。
そうだ、これをエサに剣の大会を開いて、優勝賞品にしてしまえばいいのではないかと思いつく。
女子ではめずらしく短髪で、前職が騎士団の副団長という異色の経歴を持つ彼女は娯楽に飢えていた。
思い切りがよく、決断力がある彼女は即決した。この催しを決行しようと。
この園で誰が一番強いのかが知りたい。
少しは骨のある奴はいるのか。乗馬経験のある者はいるのかとか、武闘派の人間は何人いるのかとか把握しておきたいと好奇心がウズウズする。
騎士団は体育会系の人間にありがちな上下関係が厳しく過酷な環境で、貴族の女子が多いこの園では比較的穏やかではある。
ただ、どうもダイヤモンドの原石のように光る逸材が紛れ込んでいる予感がするのだ。
長年の経験と勘だ。しかも、この勘はよく当たるのだ。
シスター長は人知れず武者震いをさせる。騎士団時代の昔の血が騒ぎ出してしまう。
ああ、衝動と好奇心が止められない。
シスター長の提案した大会の催しの報せは、光の如く早い伝達で触れ回った。
寮じゅうの女子たちが大騒ぎして、話題は持ちきりだった。
ガヤガヤと騒がしい寮の食堂のテーブルでクラスメイトにこのことを聞かされる。
「優勝賞品はケーキ1ホールだって」
「ケーキ!?もう半年以上も見ていないよ」
四姉妹は眼を輝かせていた。
来る日も来る日も味気ない食事とともにオヤツといったら週一のリンゴやバナナがせいぜいで、想像しただけでも涎 が出そうだ。
ここでは宝石や金品よりも何よりも食べ物が価値を持つ世界だ。
「えっ、でも剣の大会って……?」
誰もが戸惑う。ここは神学校で修道院なのに。剣は他人を傷つけ血を流すものだ。
武器の所持は勿論、扱うことも御法度なのではという声がする。
「いいや、剣は己の心と向き合うもの。剣を振るうことは邪念を払い、精神の鍛練によいとされるものなのだ」
シスター長は強引にこじつける。
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