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37. 決戦の火蓋
ケーキは生ものなので本日中にいただかないといけないから、これからすぐに敢行される。
「闘技場、ここ好きに使っていいんだって」
「遠足で来たことがある気がする______________ 」
四姉妹は呑気にそう云うと、友人の女子たちが「遠足?」と首を傾げる。
そんなものあっただろうか……。
円形のコロシアムは大昔の闘技場で、今は闘牛場になっている。
一万人ほど収容できるが、オフシーズンなので今は閑散としている。
寮からは馬車移動で二十分ぐらいの場処にある歴史的な建造物だ。
ものすごい規模の建造物を前に圧倒される。
殆ど何も聞かされず、いきなりの急展開すぎる。
……すごい場処に連れてこられた。大半の女子がそう思っていた。
有無も云わさず強制的に四十人ほどいる寮の女子全員が馬車で現地に連れて行かれた。
この場処でこれから何が行われるのだろうと、動悸が収まらない。
馬に乗ってクリケットの木の棒によく似た棒でしばき合う競技がリゼルハイドにはある。
本来は過激な競技だが、安全面を考慮して今回は長い筒状に縫った布に綿を詰め込んだモノで代用する。
剣の大会はさすがに許可が下りなかったので、「代わりにコレをやってはどうだ?」という提案で決まった。
充分トチ狂っているこの遊戯を子供向けにアレンジしたもの。
そして、______________このたびこの大会を開催される運びになった。
リゼルハイドにはやたら馬に乗って行われる競技が多い。
馬球 はスティックで球を打ち、相手チームのゴールに入れる競技だ。
これを応用して乗馬とラクロスを組み合わせてみたり、クリケットやサッカーも乗馬で行われる。
馬を扱った団体競技は馬球 の四人が限界のように思われるが、ラクロスは十人、クリケットとサッカーは十一人でやるものなので、よほど統率力が取れていない限り乗馬しながら行うとヒドイ目に遭う。
大抵、馬が絡んできたらしっちゃかめっちゃかになる。大勢の馬を同時に出せば各々混乱して暴れ出し、好きに排泄し出すし、地獄絵図のような光景が広がる。
クリケットのサッカーも単体で充分成立する競技なのに、なぜワザワザ云うことを聞かない動物を使いたがるのだろう。
その上、馬の数が足りないと牛や豚などの家畜も使う徹底ぶり。しかもそれを大人数でチームを組んでするスポーツに取り入れるなんて正気の沙汰ではない。
男子学生の球技大会はたいていそれらのスポーツをやらなくてはならない。学生がやるものにしては難易度が高すぎるものなのだ。
その逆で身分の高い女子は淑やかであることが美徳とされている。いや平民であろうと大概の女子は剣どころか乗馬など経験はないに等しい。
それなのに四十人いる寮生の中で約半数も参加することになる。これは多い方だ。
(類は友を呼ぶと云うが、皆コッソリ陰に隠れて乗馬や剣術を嗜んでいたのだろうか?)
やっぱり寮生活において激レアなケーキが商品だと、こうもやりたがるものなのか?
乗馬しながら綿を詰めた棒を振り回す競技が開始された。
最初はどうなることかと思ったけれど、蓋をあけて見てみるとなかなかに逞しい戦いが繰り広げられていた。
男子の騎乗しながら行われる球技大会よりもわんぱくな戦いぶりだ。
ワーワー、キャーキャー云いながら異常な熱気と興奮に包まれていた。
ルールは単純明快でバコンと一発、身体のどこかに当たればそこで終了になり、痛いけれどたいした怪我にもならない。
あと怪我するとしたら、馬の機嫌次第だ。
両者、手には綿が詰められた布の棒を持ち馬でギリギリまでの距離に迫って、相手に対して必死に手にした棒を振り回す。
しかし、剣のようにカッコよく捌くことができない。
スカスカでリーチが長いので、フニャフニャして扱いづらいのだ。
うまく扱えずに空回りすること甚だしい。これもただただ滑稽に見える。
そもそも剣ではなく、綿を詰めてあるモノなのだ。お針子のオバチャンの手作りの一点モノなので、皆それぞれ柄が違う。布地のファンシーな小花柄は緊張感に欠けるものだ。
デザイン的にかわいいというよりも微妙にダサイ代物だ。
幼い頃から剣の鍛練に励み、向かうところ敵なしの無敵の強さを誇る四姉妹にとって乗馬など朝メシ前だった。
なんやかんやでトーナメント戦で勝ち抜いて四姉妹のうち三人がベスト四まで残って、ひとりが決勝戦にまで勝ち残った。
気付けば最終決戦である。泣いても笑ってもこれで優勝者が決まる。
銀色の月光の如く輝く髪が風に靡 く。凛とした佇まい。
四姉妹のひとりであるアーシャが颯爽と現れた。
コロッセオの客席から声援が湧いて、応えるように手を振り返した。
まるで戦士の凱旋のような登場シーンだ。
これがケーキの争奪戦でもなかったら、すごい格好いい場面だったはずだ。
最後の対戦相手はポニーテールで利かん気の強そうな体育会系の女子だ。
彼女も勇敢な戦士のようだ。
奇跡的に何か強いのがいたなと思ったら、シスター長の親戚らしい。
そういえば、どことなく顔立ちが似ている気がする。血は争えないものだ。
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