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39. 話を聞いた後で

「______________そんな訳で、妹たちはものすごく強いんだ」 シファの妹たち、アーシャー、サーシャ、コーシャ、ターシャは食い意地が張っているせいで様々な才能が開花し、並外れた戦闘能力が身についてしまった。 ケーキ一個でこんなに壮絶な戦いが繰り広げられるなんて。ギャグ色が強い冗談みたいな話だが、仰天しながら思わずリヴェラは聞き入ってしまっていた。 シファの妹たちの武勇伝。やってきたことはまるで鼻先にニンジンをぶら下げた馬がすごいスピードで走らされるようなものだ。 想像以上に壮絶と云うか、凄まじいとうか。 人間、追い詰められれば何でもやり遂げてしまうことを体現したいい例だった。 当たり前のようにシファは云っているけど、並大抵のことではないだろうと、リヴェラは思うのだった。 リヴェラは当初、シファの妹たち四人のうちの誰かひとりを妃に望んでいた。 それを聞くと、シファは複雑な気持ちになってくる。 「今でもあの子たちを妃に迎えたいと思いますか?」 「いや、それはない」 「それはよかった」 親族のうちの複数人、例えば姉妹でいっしょに妃に迎える。諸外国の中にはそんな危篤な王もいる。いや、政略的なものから考えると、そんなにめずらしくもないことなのだが。 自らの立場を自覚して割り切っていれば別に何てことはないと思うが、割り切れないのが人間の心だ。 「アーシャー、サーシャ、コーシャ、ターシャの妹たち四人まとめて妃に娶りたいと云ってきた者もいたけど、四姉妹の見分けはつかないだろうし、どう見たってまともな性癖の人物には見えなかったので、丁重にお断りしたよ。親子ほど年の離れた者もいたし、でっぷりと肥えていて一目見るなり生理的に無理だと思って断ったこともあった」 (でもふくよかな体系の父であるマールテンのことは別だと云っていた) 結局、誰だって許さないつもりなんじゃないのか。とリヴェラは思う。 「相手の男に嫉妬するからだろ」と訊くと、シファはあっさり「そうですね」と認める。 誰だろうと渡したくない。という強い意志が感じられる。 シファはいわゆるシスターコンプレックスで妹のことが可愛くて仕方がないのだろう。 「父は妹たちのことを眼に入れても痛くないほど溺愛していて、離れがたい存在だと思っている。妹たちも父を残してリゼルハイドを去りたくないと思っている。親離れ子離れしなくていいと思っている。故郷を離れる必要もないと思うし、無理に意に染まらぬ婚姻をする必要もないと思う。四人姉妹だから、あのまま四人離れ離れにならずに全員一緒にいて、妹たちにはあるがままに自由に生きてほしいと思っている」 だから、忘れてください。そう云ってシファはリヴェラへと唇を重ねる。- _______________面白い話だからまだ聞きたかったんだけどなー。 何だか誤魔化(ごまか)されてしまったみたいで、歯痒い。 ……また、こいつに流されてしまう。 ________________まぁ、いいか。また聞いてみよう。 シファからの口づけを受け入れ、眼を閉じる。 シファの手がリヴェラの背に回される。 抱きすくめられて、いい匂いがした。 シファの纏っている法衣から漂う白檀の香の匂いだった。 _______________落ち着くな。この香り……。 とろんと眉を下げ、シファの懐に頬を寄せてしばし身を寄せ合うと日が傾きはじめる。 徐々に暮れゆく空は黄昏に染まってゆく。 ふたりのシルエットが地面に映る。 長い影が伸び、互いに寄り添う。 ああ、これが長年連れ添った夫婦のようになるのはいつのことになるのだろうか。 そんなことを考えながらしばし時間が止まったように二人だけがこの空間に取り残されたように孤立する。 風景が色を持ったまま音が止み、すべての流れが停止するような錯覚に陥る。 束の間そうしていて、しばらくして我に返り気付く。 「……そろそろ、行きましょうか」 肌寒い風が吹く。少し冷えてきたみたいだ。 シファがリヴェラを気遣い上着を掛け、肩を抱きながら王城へと戻る。 「__________きっとあなたは妹たちには勝てない」 シファは繰り返す。 「ただ、妹たちは好奇心が強すぎて余計なことに頭を突っ込まないか心配でしょうがないです。諍いに巻き込まれないかとか、たまたまシスター長はいい人間だったからよかったものの、いずれ妹たちの強さを利用しようとする不届きな輩も出てくるだろうと思って不安になるのです」 シファははじめて出会ったときにリヴェラに「私の知らない十八年間を知りたい」と云ったけれど、リヴェラにもシファの知らなかった一面がある。 妹のことを案じる兄としての顔がある。 「私は強さなんて意味がないと思う。……だって、そうでしょう?平和になるにつれて必要じゃなくなっていくから」 ___________それは違う。 云おうとするが、リヴェラは声に出せずにいる。 まるで喉が詰まったように苦しくて、何も云えずにいる。 だからといって、どう説明していいのか分からないのだけれど。 戦争で繰り返し勝利した結果。 国土を増やし、国力が栄える。輝かしいひとつの時代だったと云える。 かたや戦乱の世の中で戦争で勝利をおさめた英雄。 かたや貿易業で成功をおさめ、経済の発展に貢献したことで世の中に平安をもたらす。 ヴァイス国王とマールテン国王、対照的なふたりだが どちらも凄い偉業だし、善い悪いはひとそれぞれの解釈や評価により異なる。

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