12 / 13
第10話 中編・贄
「気づいていないようだが――」
蓮は、春の衝撃を置き去りにするように、淡々と話しを続けた。
「白鷺の力が、お前の体を渦巻くように取り囲んでいる。
封印されていながら、それだけの力を放出しているんだ。
……本来、お前は相当な力の宿主なんだろう」
――封印。
その単語が、春の心を酷くざわつかせる。
「僕が能力者で……力が封印されてるって……」
喉が、ひどく乾いていた。
「じゃあ……死者の姿が視えるのも、
声が聞こえるのも……
全部、白鷺の血のせいってこと?」
蓮は、そうだ――と短く肯定すると、
春の理解が追いつくのを待つことなく、
言葉を続けた。
「白鷺の能力者は、死者の魂と触れ合い、
死者に“まやかしの命”を吹き込むことができる」
一瞬の沈黙の後、蓮が静かに言った。
「――自らの命を代償に。」
「……え?」
あまりの衝撃に、春は言葉を失った。
脳裏に、
彼方に触れた時の記憶が蘇る。
体の奥から、
得体のしれない何かが抜け落ちていくような、あの感覚。
「……っ」
思わず、胸元を押さえる。
「お前に起こった体の異変は、それが原因だ」
蓮の声が、どこか遠くから聞こえてくる。
次々と突きつけられる、現実離れした内容に、
何か言いたいのに、言葉が喉につかえて出てこない。
そんな春の動揺を前にしても、
蓮の口調は変わらなかった。
「お前は、能力の扱い方も知らず、
自分の身を守る術すら持たないまま、
無意識にその力を使っていたことになる」
「……じゃあ、僕は……」
ようやく、言葉が口をついて出る。
その声は、小さく震えていた。
「僕は……知らないうちに
彼方に、命を吹き込んでいたってこと?」
――自分の命を削って?
背中に、冷たい汗がにじむ。
蓮は無言でうなずくと、再び言葉を続けた。
「――だが、」
その声が、わずかに低くなる。
「いくら白鷺の血を引くとはいえ、
死者に命を吹き込める程の能力者は、
もう何年も生まれていないと聞いている」
短い沈黙が落ちた。
「最初は、半信半疑だった。
だが、さっきの彼方との一件で確信した」
蓮の視線が、まっすぐ春を射抜く。
「お前は――。
白鷺一族の“選定者”だ」
――選定者。
夢の中で、
父が、かつて口にした言葉。
『お前は……白鷺の……選定者』
点と点が、
線として繋がった気がした。
春は居ても立ってもいられず、
目の前の蓮に詰め寄った。
「選定者って、何!?
なんで、僕が……!」
「――選定者とは、
力に選ばれ、
定められし運命を担う者」
蓮の瞳の奥に、
闇のように暗く深い影が差す
「一族の、贄だ」
贄――生贄。
その言葉に、
春の頭の中が、真っ白になる。
「……生贄だなんて……
そんなの、この時代に……あり得ない」
春の声に、再び震えが混じる。
「この世には、
どんな犠牲を払ってでも
死者に会いたがる者がいる。
それが親兄弟や、恋人なら……なおさらだ」
蓮は、春のおびえるような瞳から一切目を逸らさなかった。
「……それって……
その人たちのために、
無理やり力を使わされるってこと!?」
少し命を吹き込んだだけで、
体が壊れそうになるほどの異常が出るというのに。
春は、震える声で訴えた。
「そんなの、許されるはずがない!!」
「そうだ」
蓮が、即答する。
「普通なら、許されない」
だが、と続ける。
「相手が権力者なら話は別だ」
そう告げる声音が、
不気味なほど低くなり、
春は思わず蓮の顔を凝視した。
「白鷺も黒鷺も、
政財界と深く関わってきた。
選定者は一族の繁栄のために
その力を使わされ続ける」
一瞬の沈黙が落ちる。
「そこには、
選定者の意思も、人権も存在しない。
――奪いつくされるまで、終わりはない」
その声音には、
深い憎悪が滲んでいた。
まるで、
かつて奪われたものの重さを物語るかのように。
重い沈黙が落ちた。
聞かされた内容は、あまりにも現実味がない。
けれど――
自分の身体で、
春はその“一端”をすでに経験してしまっている。
「……あんた……
いったい、何者なんだ?」
ずっと、胸にあった疑問。
蓮は、春の瞳をまっすぐ捉えると、短く告げた。
「――俺は、黒鷺一族の血を引く者だ」
それは、どこかで予想していた答えだった。
「彼方のこと、あんたも視えてるよね?」
「視えている。
だが、お前と同じ見え方じゃない。
俺には、靄のような影として認識できるだけだ。
死者の声を聞くこともできない」
「それじゃあ……
黒鷺一族の能力って……?」
「黒鷺の能力者は、
白鷺の削られた命を、元に戻すことができる」
言葉が途切れ、
蓮の顔が僅かに歪んだ。、
「それが、
望んでもいない力を持って生まれた者の――宿命だ」
(……望んでもいない力……)
その言葉の意味を
春は、それ以上踏み込んで聞くことが出来なかった。
ともだちにシェアしよう!

