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第10話 前編・能力者

蓮は、春をまっすぐ見据えたまま、再び告げた。 「お前、このままだと死ぬぞ」 その瞳が、冗談や脅しではないと告げている。 ――死。 その一文字は、 これまでどこか現実味のない、遠い概念だった。 それが今、現実となってすぐ目の前に突きつけられている。 「な……なんで?」 震える声が出た。 春の瞳には、はっきりとした恐怖が浮かぶ。 昨日から、立て続けに起こる不可解な出来事。 彼方の異変。 体の感覚の消失。 そして、目の前の男から告げられた死の宣告。 どれもが現実離れしていて、 なのに、どこかで“納得してしまいそう”な自分がいる。 春は、恐怖を振り払うように、蓮に詰め寄った。 「なあ、あんた……何か知ってるんだろ!?」 感情が先走り、言葉が荒れる。 「高台で会った時からおかしかった!  僕への態度も、言動も……さっきだって……!」 言いかけて、 つい先ほどの感触が蘇る。 唇に触れた温度。 呼吸を奪われた、あの感覚。 春の顔が、かっと熱を帯びた。 自分でもはっきりと分かるほど、頬が火照っている。 一瞬、視線を逸らし、 けれど、春は意を決したように、再び蓮を睨みつけた。 「教えてよ! あんたの知ってること、全部!」 春の叫びは、夜の海へ吸い込まれ、 波音に溶けて、静かに消えていった。 沈黙が落ちる。 耳に届くのは、 寄せては返す波の音だけ。 まるで、この世界から二人きりになったかのような錯覚に、 春の胸が、ざわつく。 やがて、蓮が静かに口を開いた。 「白鷺と黒鷺の能力について――  お前は、どれくらい知っている?」 「……は?」 間の抜けた声が、口からこぼれる。 何を聞かれたのか、すぐには理解できなかった。 蓮が、小さく溜め息をつく。 「……そこからか」 その一言に、 春は自分が、何も知らない場所に立たされているのだと、 改めて思い知らされる。 胸に引っかかっていた疑問が、 勝手に口を突いて出た。 「なあ、もしかして、あんた――」 言い終わる前に、 突然、鼻を摘ままれた。 「――むがっ!?」 「蓮だ」 淡々とした声。 「あんた、って呼ばれるのは好きじゃない」 理不尽だ、と思う。 (自分だって僕のこと “お前”って呼ぶくせに!!) 抗議の言葉は、 鼻を押さえられているせいで、声にならない。 春が大人しくなったのを見計らって、 ようやく指が離された。 「一旦、ここから離れるぞ」 有無を言わせない口調。 そう言って、 蓮は誰もいない砂浜を歩き出す。 行き先も理由も分からないまま、 春は、ただ黙ってその背中を追った。 しばらく歩いた後、 蓮が不意に問いかけてくる。 「今、自分がどれだけ危険な状況に置かれているかは、  分かっているか?」 「……正直、よく分からないよ」 春は、足元の砂を踏みしめながら答える。 「でも、突然体の感覚がなくなった事と  関係しているんだろうな、ってことくらいは」 蓮の歩みが、わずかに遅くなった。 「彼方がお前の能力に気づいた」 突然告げられたその名に、 春の背筋がひやりとする。 「下手をすれば、  命を狩られるぞ」 「――――!?」 心臓が、どくんと、大きく脈をうつ。 「あんた……  やっぱり彼方のこと視えてるのか!?」 春は、必死に問いかけていた。 「僕の能力って!?  なんで彼方が僕を殺そうとするわけ!? 意味がわからない!」 心に巣食った不安と恐怖が、 言葉を次々と押し出していく。 そんな春を横目に、蓮は足を止めると 遠く、崖の上に建つ別荘へと視線を向けた。 薄闇の中に佇むその建物は、 不気味な存在感を放っている。 「ここまで離れれば、  おそらく大丈夫だろう」 そう言って、 石段に腰を下ろした。 春も促されるまま、その隣に座る。 潮風が、冷たく頬を撫でた。 胸の鼓動が、やけに速い。 期待と不安が、ないまぜになって、 落ち着かない。 ――ようやく、答えが聞ける。 だが、蓮の口から出た言葉は 春が予想もしていない、問いだった。 「お前、幼少の頃から――  死者を視てきただろう?」 心臓が、大きく跳ねる。 「……どうして、 あんたがそれを知ってるんだ?」 「お前が、白鷺一族の血を引く者だからだ」 一拍、置いて。 「それも――  相当な力を持つ、能力者だ」 蓮が、静かに言い切った。

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