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第11話 前編・力の習得

次の日、春は自宅で蓮に力の使い方を教わっていた。 できるだけ自然に囲まれた、静かな場所がいい—— そう言われた末の選択だ。 島のほとんどは自然に覆われているとはいえ、 小さな島である以上、人の行き来を完全に避けることはできない。 観光客の足音や、地元民の話し声が、 どこかで必ず耳に入ってしまう。 集中を要する鍛錬には、向いていない。 熟考の末、春は自宅を提案した。 民家の密集地からは幾分か離れ、 両側を竹藪に挟まれた細い小道を抜けた先に、 ひっそりと佇む家。 茅葺き屋根のその姿は、 古くからこの地に在り続けてきたことを物語るような、 重厚な佇まいだった。 人の出入りはなく、 風が竹を揺らす音と、鳥の声だけが響く。 ここなら、誰にも邪魔されることなく鍛錬に集中できる。 「よろしくお願いします!」 そう言ったのは、 もう四十分以上前のことだった。 春は今、自身の体から溢れ出ている白鷺の力を視認するため、 ひたすら座禅を組まされていた。 目を閉じ、蓮の教えどおりに意識を整える。 空気の揺らぎ。 温度差。 呼吸に合わせて、わずかに変わる周囲の気配。 それらを感じ取り、 さらに、その奥へ—— 自分の内側へと意識を沈めていく。 ……はず、なのだが。 ——正直よくわからない。 何かを感じ取ろうとすればするほど、 意識は逆に霧散してしまう。 (……蓮さんって、なんだかんだ優しいよな) 余計な思考まで、自然と頭に浮かんでくる。 出会った当初、 蓮は明らかに春へ敵意を向けていた。 自分が白鷺の人間だから。 まだ、数えるほどしか言葉を交わしていない。 それでも春は、 蓮が白鷺一族そのものを、 強く憎んでいるのではないかと、 漠然と感じていた。 なのに—— 二度も、助けてくれた。 春が、知らずに彼方に命を吹き込んだ時、 関わらないという選択だって、 きっと出来たはずなのに。 それなのに、 今もこうして時間を割き、 力の使い方を教えてくれている。 蓮のことを考え続けていた、 その時―― すぐ近くで、 人がしゃがむ気配がした。 はっとして目を開けた瞬間、 思考を止めるほど端正な顔立ちが 視界いっぱいに広がり—— 一瞬、呼吸を忘れる。 次の瞬間、 びしっと額に鋭い痛みが走る。 「いたっ!」 「お前は雑念が多すぎる」 無表情で一言告げられる。 春は額をさすりながら、 恨めしそうに蓮を見上げた。 (この人、自分の顔立ちがどれだけ人を動揺させるか、 少しは自覚したほうがいい……) 至近距離で見るその整った顔は、 心臓に、あまりにも悪すぎる。

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