24 / 34

第15話 前半・蓮の怒り

蓮は、怒りを露わにした顔で春に詰め寄った。 「力を使ったのか!? 彼方に!」 その声が、ひどく遠くに聞こえた。 どうしたんだろう…… さっきよりも頭が、うまく働かない。 思考が霧の中に沈んでいるようで、 目の前の状況を掴みきれずにいる。 ――彼方に、命を吹き込んだ代償だろうか。 命を吹き込むと、決まって体のどこかがおかしくなる。 春は蓮を見つめたまま、ぼんやりと問いかけた。 「……なんで、ここにいるの?」 蓮は、随分前に別荘へ戻ったはずなのに。 「そんなことはどうでもいい! なぜ彼方に接触した!? ここには近づくなと言ったはずだ!」 怒声が、頭の奥で反響する。 春は、怒りをあらわにする蓮を見つめながら、 (――怒っている顔も、かっこいいなぁ……) と、ぼんやりと考えていた。 「答えろ!」 二の腕を掴む手に、力がこもる。 その痛みで、意識がようやく現実へと引き戻された。 「……これ」 春は金のロケットを差し出した。 掌の上で、ロケットが静かに光っている。 一瞬の沈黙。 蓮はそれを見つめ、怒りを押し殺すように息を吐いてから、 静かにロケットを受け取った。 「……拾ってくれたのか?」 蓮がロケットを見つめながら言う。 その瞳は、金色の光を映したまま、動かなかった。 「庭に落ちてて……。 きっと、大切な物なんだろうなって……そう、思って」 言葉を紡ぐのも、どこか遅い。 自分でも、歯切れの悪さを自覚していた。 春はゆっくりと顔を伏せる。 頭の中には、ロケットの中の、儚く美しい人の顔が浮かんでいた。 「……悪かった。 なくしたことに気づいて、お前の家まで引き返したんだが…… 行き違いになったみたいだな」 「……裏道を通って、ここまで来たから……」 春は、うつむいたまま言う。 顔を上げられなかった。 今の自分が、どんな顔をしているのかわからなくて。 とても、蓮の顔を見られなかった。 (……あぁ、嫌だなぁ) 胸の奥で、ドロドロとした汚いものが渦巻いている。 これもまた、彼方に命を吹き込んだ代償なのだろうか。 そのとき、蓮の静かな声が、頭上から降ってきた。 「届けようとしてくれたことには感謝する。 だが、彼方に遭遇する危険は考えなかったのか?」 春は唇を噛みしめると、言葉を飲み込んだ。 顔を上げると、無理やり笑みを作る。 頭の中は、相変わらずぐちゃぐちゃだった。 「ロケットが開いて、中身、見えちゃったんだ。 すごく……奇麗な人だね」 言葉が、喉につかえる。 どうしてだろう。 胸が、痛い。 「蓮さんの大切な人だと思ったら、 早く届けないとって……それしか頭になくて」 再び、沈黙が落ちる。 蓮は何も言わなかった。 ただ、手の中のロケットに視線を落としたまま、動かない。 二人の頭上に、 夜の闇が、静かに舞い降りてきていた。

ともだちにシェアしよう!