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第14話

俺は静かにサクの話を聞いていた。 「…そんなことがあったのか」 一緒にベンチに座りながらサクの話を聞いた。 「……うん」 「話してくれてありがとう」 「ものすごく怖かった」 「うん」 「ものすごく不安だった」 「…うん」 「だから…来てくれて、ありがとう」 サクの声は震えていた。俺はサクの手を強く握った。ふとサクは顔をあげこちらを見た。 「…先輩」 「…なに?」 「こんなに、すごくすごく汚い俺でも、いいんですか」 「だからさっきも言ったでしょ。どんなサクでもサクだって」 「……でも」 俺は全身でサクを抱きしめた。夏の夜だからか、緊張から来るのか、少しサクの汗ばんだ匂いがした。 「愛してる」 「…え?」 「俺はサクを愛してる」 「え、えぇ…。なんですか、いきなり」 サクの顔がぼわっと赤くなり、彼の心臓のトクトクトクッという鼓動が体を通して伝わってくる。 「俺、きちんと伝えてなかった。だからお前を不安にさせてしまった。言葉にするのも、行動に移すのも、遅すぎてごめん」 「…そうですよ、先輩。先輩は下手くそでヘタレすぎなんです、自覚してください」 「ほんとそうだね。…ごめん、サク」 「…でも初めて会った日から三ヶ月、俺のことをとても大事にしてくれました」 「え?」 「一緒にご飯食べたり、出かけたり、話したり。俺は十分幸せでした。先輩と一緒にいれるだけで最高でした。俺の人生の最高は、先輩に会えたことかもしれないって思いました」 「……俺もそうだよ」 「でも、俺はとってもわがままなんです。もっともっと、もーっと幸せが欲しい、幸せを感じたい」 「……」 「俺にもっと、幸福を与えてくれませんか」 「……例えば?」 「……やっぱり先輩はヘタレだ」 「え?」 「……言わなくても、わかるでしょ」 そういうとサクは唇を重ねてきた。 「ん、んぅ…ふ」 俺は手を腰に回し、サクも背中の手に力が入るのを感じた。 くちゅくちゅと唾液の水音が頭の中で響き、舌と舌を絡めあい、サクのやわらかい頬の内側をなめ、上あごをなめ、歯列をなぞる。 「ん、んん……んぁっ」 サクの横尻をなで、太ももをなで、股間をなでる。サクは唇を離した。 「ん、待って」 「だめ」 反対の手でTシャツ越しに胸を上下に撫でる。胸の突起がだんだんと充血して膨らんでいくのが分かった。 「あっ、あ」 「……ここ、誰か来ちゃうかもね」 俺はサクの耳元で囁いた。 「どうする?車いく?」 サクの全身の色々なところをなでながら聞いた。すると返ってきたサクの答えは意外だった。 「……ここがいい、です」 「……やっぱりサクって変態」 「違います!……車まで我慢できないから」 確かに車までは歩いて十分くらいかかる。目の前には真っ赤な顔をしたサク。誰か来るかもしれない状況。どうするか俺は一瞬考えた。しかし答えは決まっていた。 「……もしも誰か来たら、サクのこと抱えてダッシュで逃げるからね」 「……ふふっ。俺のことを先輩がお姫様抱っこしてくれるんですか」 サクは小さく瞬く光のように、優しく微笑んだ。 「その時は、その時」 「…嬉しいです」 「そんな状況、本当は勘弁してほしいけど」 「俺は別にいいですよ。見せつけましょうよ、俺たちの愛を」 「いや、その前に通報されるって」 「怖がって向こうのほうが先に逃げ出すんじゃないですか」 「だから、ほんとやめてってば」 「もう…先輩のヘタレめ」 サクは唇をとがらせ、俺の右耳を手でもみ始めた。サクの手はほんのり冷たくて気持ちよかった。俺はサクの尻と胸を両手で撫で続けていたが、しばらくするとサクが口を開いた。 「……先輩、約束してください」 「……なんでしょうか」 「俺に容赦は無用です。どんとこいです。俺は意外と丈夫です。……俺、もっとたくさん先輩と触れ合いたい」 「……うん」 「……もっと言うと、先輩と番になりたい、です」 「なんと」 俺は驚きを隠せなかった。 「え?先輩は嫌なんですか」 「そんなことない!…けど、むしろサクは俺でいいの」 「もちろんです。あの日出会ったあの瞬間から。むしろ、あの日にうなじを噛んでほしいくらいでした」 「……そっか」 「まぁいいですけどね。それと、俺のことでひとつ」 「はい」 「…俺も足りないところがあったと思います。先輩に対して配慮が足りなかった」 「そんなことないよ」 「いいえ、先輩はヘタレすぎました。先輩との触れ合いがないなら俺からもっと誘うべきだった。悩んでるくらいならさっさと行動に移せばよかったんです」 「サクは積極的だね」 「そんなんだから草食系男子なんて言われるんですよ。世の中もっとがっついていかないと」 「…勉強になります」 「だから俺も思ったこと言います。これから言うようにします。もっと、ずっと先輩の隣にいたいから」 「サク…」 「先輩、大好き。愛してる」 「俺も」 俺はサクをベンチの上で押し倒した。

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