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第7話 やさしい匂いに名前をつけるなら
「ん……?」
ふんわりと鼻をつく優しい匂いに目が覚めた。僕は眠まなこの目をぱしぱしとさせながらベッドを見つめる。そこに居たはずの玲乃が見当たらない。ゆっくりと大きく伸びをするとぱさりと何かが床に落ちる音が聞こえた。
「これ、玲乃の……」
おそらく寝落ちしてしまった自分の背中に掛けてくれたのだろう。白くてぽこぽことしたラビットファーのブランケットに触れる。辺りをきょろきょろとして玲乃がいないことに安堵して、すんすんと鼻を近づける。
あ……大好きな玲乃のおひさまみたいな良い匂い。
つま先を開いたり閉じたりしながらすんすんとしていると、身体が一気に熱くなってきて慌ててブランケットから手を引っ込めた。
だめだめ。僕、悪い子になりたくない。
その直後、ガチャリと部屋のドアが開いてびくっと肩を跳ねさせる。後ろを振り返れば静かに微笑む玲乃の瞳と目が合った。胸がとくんと心地よく鼓動し始める。
「おねむだった? 起こしてごめん」
僕はふるふると小さく首を横に振る。
「ううん。僕のほうこそごめん。勉強教える約束だったのに寝落ちしちゃった……」
「いいよ。俺も寝てたし。さ、お腹空いたね。こっちおいで」
そっと差しだされる手のひらに静かに自分の指先をのせて立ち上がった。指先だけを絡めて廊下を進みリビングへ連れられる。
香ばしい匂いがふわふわと漂ってきてお腹がぐううっと大きく鳴いた。
「はは。お腹ぺこぺこでしょ」
「う……いつも夜ご飯作ってくれてありがとう。何も手伝いできなくて……」
申し訳なさそうに目を伏せる僕に玲乃はふふっと口元を緩める。
「睦がお手伝いするとキッチンが爆発しちゃうからね」
「ゔ……ごもっともです……」
以前、1度だけ無理を言って玲乃に頼み込んで夜ご飯の手伝いをしたのだが、生卵をそのままレンジでチンしてしまい爆発させてしまった。
一緒にポテトサラダを作ろうとしてじゃがいもの芽を取り除くことを知らなくてそのまま茹でてマッシャーで潰してしまった。
それを事後報告すると玲乃は
「もー。まだまだ睦には花嫁修業が必要だね」
とお腹を抱えて笑って、じゃがいもの芽をひと欠片ずつ取り除いてくれたことがあった。
それを思い出していると、玲乃が僕のためにダイニングテーブルの椅子を引いてくれた。
「さあ。お姫様、こちらのお席へどうぞ」
「……僕、お姫様じゃないもん」
胸元に片手を置いてウェイター役になりきる玲乃をむっと頬を膨らませて睨む。しかし玲乃はそんな僕の眼力なんて効かないよというばかりに、綺麗にスルーして料理を運んでくる。
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