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第8話 甘えたくんのウェイター

「こちら、本日のサラダとかぼちゃのスープでございます。熱いのでちゃんとフーフーしてからお召し上がりください」  フーフーって……! 僕、子どもじゃないのに……!  目の前に置かれた料理と玲乃の顔を交互に見つめる。  これは食べるまで観察されてしまう流れだ。  僕はゆっくり行儀よくスプーンを持ってかぼちゃのスープに口をつける。きちんと玲乃の指示通りフーフーした。はむ、とスプーンが唇が触れてスープが口の中に入る。ほっこりとした味わいで温かい。身体の芯から温まりそうだ。  次いでサラダも口に運ぶ。薄く透き通っている生ハムが慎ましくかけられていて、まるでサラダを包むドレスみたいだ。シャキシャキとした食感に食欲をそそられる。  ものの5分足らずでサラダとスープを平らげてしまった。  その間も玲乃はじっと僕のことを見つめて観察しているようだった。 「玲乃も一緒に食べようよ」  僕の言葉に玲乃は「うん」と頷いた。ウェイター役を辞めて、キッチンからメインディッシュを持ってきた。 「わあ。すごくいい匂いの正体ってこれだったんだ……!」 「俺も作ってるときからお腹が鳴ってたよ」  くすくす微笑む玲乃を見て僕もほっとする。 「さあ。睦。お食べ」 「いただきます……!」  鮭のムニエルにパセリが添えられている。フォークとナイフをぎこちなく使いこなして口へ運ぶ。ハーブの香りが鼻先からおでこにかけて突き抜けていった。 「んん。美味しい!」  思わずそう唸ってしまった。その様子を玲乃が満足そうに見つめていた。向かい合わせでテーブルを囲んでいると、玲乃が僕のことを見つめて「あーん」と甘く響く声で呟き口を開いた。 「えっと……?」  戸惑う僕をよそに玲乃は頬杖をついて黙って黒い瞳で見つめてくるだけ。瞳の奥は墨を水で溶いたように灰色に潤んでいる。  僕はその妖艶な瞳から目を逸らせずに、おそるおそる鮭のムニエルをフォークにのせて玲乃の口に運んだ。ぷるぷるとした血色感のある唇から仄紅い舌がちらりとのぞいた。  僕はそれを何か見てはいけないものを見たような気持ちで目を逸らしながら横目で見とれていた。 「ん。おーいし」  ぺろ、と仄紅い舌で唇を舐め玲乃が呟く。  僕はばくばくする心臓の鼓動に「早くおさまれ」と言い聞かせる。

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