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第15話 睦、進路指導室に呼び出される

 村野と三上から暴行を受けた日から1週間後、僕は担任の葉山先生から進路指導室に呼び出しを受けていた。 「なあ、守須。今回の中間テストかなり頑張っただろう。学年4位、クラス1位なんて初めてじゃないか?」  葉山先生がパイプ椅子に背をもたれながら聞いてくる。  僕は直立した姿勢を正すようにして「はい。初めてです」と答えた。  葉山先生は担任らしく振る舞う。どちらかと言えば放任主義の先生だから、こうして二人きりで話すのは初めてだ。クラス替えをして1ヶ月ちょっと。この先生にまだ慣れないでいる。少し強面の、淡々とした喋り方。まだこの先生の性格をいまいち掴めていない。煙のように捉えどころがないのだ。 傷については背中の痛みは引いてきていて湿布を貼っているから治りも早く感じる。 「進路のほうはどうなんだ。親御さんと話したりしてるか?」  葉山先生がシルバーの縁のメガネを外して、メガネシートで汚れを落としている。 「今のところ大学や専門学校などに進学するつもりです」 「そうかそうか。まあ、なんだ。お前の成績なら中堅レベルの私大には入れるだろうから、今から受験勉強しておくのもいいと思うぞ。何か夢とかやりたい仕事とかないのか?」  葉山先生の言葉に僕は押し黙る。正直なところ夢ややりたい仕事がまだ思いついていない。  なんとなく、私大に入って卒業して新卒でパソコンを使う会社に入るというのがベーシックルートだと感じていた。父と母がそうだったからだ。両親は同じ大学のサークルで出会った2つ歳の離れた先輩・後輩という関係性だったらしい。漫画やドラマでよく見る話だ。 「まだこれといって具体的なものは考えていませんが、力仕事は苦手なのでそういった仕事じゃなければなんでもやってみたいと思っています」 「なるほどなあ。まあほどほどにな。健康第一だぞ」 「……はい」  ちら、と葉山先生が僕の頬を見つめて言ったので静かに頭を下げて進路指導室から出た。  高校2年生の5月後半。  いよいよ将来について本格的に考えなければならない時期に入ったようだ。  僕は学食のエリアに向かい、自動販売機で梨水を買ってペットボトルに口をつけた。背中に貼った湿布は毎晩お風呂上がりに張り替えている。この1週間背中に違和感を覚えていて、どこか落ち着かずにそわそわとしてしまっている。  幸い、誰からも「何があったの?」と聞いてこないのでなるべく静かに過ごしていたつもりだ。  村野と三上は教室の隅で密かに息をしているようだった。玲乃の周りにいた2人の姿は今はもうない。玲乃は二人と行動することをやめたようだ。村野や三上はあの日のことを誰にも口外していないらしく、僕は大きな波風を立たせずに学校生活を送れている。 「玲乃ー。中間テスト学年11位って廊下に貼ってあったよ。なーんでいつも課題もギリギリなのに頭いいのー?」  またいつもの光景だ、と僕は玲乃の席を盗み見る。村野と三上がいないが、通常通り女子3人が玲乃にべったりとくっつき虫をしているように見えた。 「まあ、とっておきの秘密兵器持ってるから」  玲乃は机に突っ伏して眠そうにあくびを洩らした。  3人組の女子の中でリーダー格が西園寺さんだ。茶髪のポニーテールを高い位置でまとめている化粧の濃い女の子だ。所謂「ギャル」という類の女子らしい。 僕はまだ一言も話したことがなかった。しかしクラスにおける彼女の存在感と発言力には玲乃にも匹敵するインパクトがあった。 「てかさー文化祭準備そろそろだね。玲乃は何やりたい?」  女子3人はじっと玲乃を見つめている。玲乃はふぁ、と息を吐いてから 「楽しいのがいい。めんどくさいのはやだ」  と答えてからまた仮眠モードに入ってしまった。西園寺さんと2人の女子は「また寝るのー?」と嬉々として悲鳴をあげて、キャッキャと自分たちの席へ戻っていった。  その日の午後のHRで文化祭の出し物を決める話し合いが行われた。僕はみんなのやりたいものをやろう、というスタンスで臨んでいた。  葉山先生がコホンと息をつく。 「えー。我が校の文化祭は7月15、16日。土日の2日にわたって開催される。今回で37回目の文化祭だ。ルールを守り、安心安全な文化祭にするようにみんなも意識を高めてくれ。学級委員長、後は頼むぞ」  そう言い終えると葉山先生は煙草を吸いに喫煙所へ向かうために教室を出ていってしまった。学級委員長の常田(つねだ)くんという活発な男子生徒が「ちゅうもーく!」と黒板の前に立つ。 「じゃあ何か案がある人挙手ー!」 「はーい!」  常田くんの声に大きく返事をして手を挙げたのは西園寺さんだった。西園寺さんはたったったと軽快にスキップしながら黒板の前に歩いていった。 「みんなが楽しめて、準備が面倒くさくないやつがいいでーす!」  あれ、それ玲乃の意見だ。  玲乃はぼーっと机の上を見ていておねむな様子で、西園寺さんの話を聞いているようには見えなかった。 「具体的にどんなのがやりたいの?」  常田くんに聞かれると西園寺さんはスマホで何かを検索して動画を選ぶとクラスメイトに見せてきた。 「こーんな感じでコンカフェやりたーい」 「コンカフェ? あー。コンセプトのあるカフェか」  常田くんがふむふむと頷くとクラスメイトも「いいねそれ」とはやしたてる。 「しかも男装・女装コンカフェがいいと思うっ! 普通のコンカフェじゃつまんないし、クラスの皆の意外な一面も見れるかもだし」  「たしかにー!」「西園寺さんすげえ」とクラスメイトが口々に呼応する。 僕も「なんだかそれ、楽しそう」と乗り気だった。

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