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第25話 これ以上かわいくなったらだめ
「よし。着いたよ」
タクシーから降りると3階建てのビルが目に入った。
その1階のフロアが今回玲乃が予約した美容院らしい。美容院慣れしていない僕は詳しいことは玲乃に任せることにした。玲乃が受付を済ませると数分もせず席へ案内された。幸い、玲乃と隣の席だったので安心する。2人の美容師が挨拶をしてくれた。
「こんにちは。ご来店ありがとうございます。玲乃くんの担当美容師の店長の真島です。今日は玲乃くんのお友達もご紹介していただきありがとうございます」
金髪のスパイキーショートの髪型の真島さんという美容師はいかにもなチャラ男美容師だったが、言葉遣いが丁寧だった。
するともう1人の女性の美容師が睦の隣に控えて挨拶をする。
「こんにちは。本日アシスタントとして入らせていただきます。華宮です。メンズカットが得意なのでぜひ一緒にお好みのスタイルを再現できればと思います。よろしくお願いします」
華宮さんはくびれのある茶髪のロングヘアの若い女性だった。フレッシュな挨拶に僕もしっかり頭を下げる。
「玲乃くんはリタッチかな? 色は同じでいい?」
早速、隣の席では真島さんが玲乃の髪の毛に触れながら施術内容を確認している。
「はい。リタッチと同じ色でお願いします。あと、睦なんですけど」
突如、玲乃が僕のほうへ意識を移したのを見て華宮さんと真島さんがじっと僕を見つめてきた。
顔を見られているのではなくて、あくまでも髪型を見られているとわかっていても初対面の人にじっと見られるのは緊張してしまう。
僕は変な汗をかかないようにと手のひらを固く握りしめる。
「この写真の感じで、前髪はシースルーマッシュで、カラーなしで地毛のままシャンプーとトリートメント、ヘッドスパでお願いします。いいよね? 睦」
魔法の呪文のように聞きなれないワードに囲まれて僕は内心おろおろと慌てたが、玲乃が見せてくれたイメージ写真の髪型はまだチャレンジしたことがなくて素直にやってみたいなと思った。
「はい。玲乃の言った通りでお願いします……!」
「わかりました。じゃあ華宮さん。よろしくね」
玲乃の担当の真島さんが華宮さんに声をかける。すると華宮さんは僕の後ろから実際に髪の毛に触れてイメージを教えてくれた。
1時間半後同じタイミングで施術の終わった2人はそのまま夕食を食べて帰ることにした。玲乃がおすすめだと言う洒落たイタリアンのお店に入る。
「結構髪の毛すっきりしたでしょ。特に前髪がいい感じに抜け感出てる」
レンガ調の壁紙の店内のテーブル席で料理を待っていると、玲乃が興味深そうに僕の髪の毛に触れてきた。その距離が近くて、上手く息ができなくなる。
「玲乃の提案のおかげだよ。僕、こういう髪型にするの初めてだけど似合ってるかな?」
少し得意げに顔を傾けてみた。
「っ」
すると、息を飲み込む音と同時に玲乃がむせたのでお冷を手渡して飲ませる。ごほごほしてる背中をとんとんとさする。
「大丈夫?」
「……うん。ちょっとむせた。かなり似合ってるよ。メンズアイドルみたい。だけど、これ以上かわいくなったらだめ」
玲乃は、ふふと笑った。
その笑顔の意味を、僕はまだ知らなかった。
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