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第30話 保健室の悪戯

「少しお客さんとトラブっちゃって、コーラかけられちゃっただけなので大丈夫です。タオル借りてもいいですか?」  佐藤先生は渋い顔のままタオルを差し出してくれた。それで顔周りや髪の毛を拭いていると玲乃がベッドの隣に腰掛けてきた。思わず少し離れると玲乃がタオルを奪い取ってわしゃわしゃと頭を拭いてきた。 「あー。悪いな2人とも。熱中症気味の生徒が出たから救護に向かう。しばらく休んでろ」  そう言い残すと佐藤先生は颯爽と保健室を出ていった。扉が閉まる音が聞こえてから玲乃が僕の頬をむにゅ、と掴んで強制的に目を合わせられる。 「睦が助けてくれたのすごい嬉しかった。けど無理はしないで」  むにむにと頬をつままれ僕はこくんと頷いた。玲乃はようやくいつも見せてくれる穏やかな瞳に戻った。 「あの人玲乃のファンだったのかな」 「あんなのファンじゃないよ。ただの迷惑客」  僕の素朴な疑問を玲乃が一刀両断する。こういうグレーにせず白黒はっきりつける芯のブレない姿に幼い頃から憧れていた。 「はー。かなり労働したなー」  ぼふ、と玲乃が保健室のベッドに横たわる。確かに玲乃は1日中立ちっぱなしでお客さんの相手をしていて大変そうだった。 「今日は玲乃と西園寺さん目当てのお客さんで行列ができてたよ。九重くんのSNS運用の集客も成功してるし文化祭1日目いいスタートだね」  じとーっとした目で玲乃が見上げてくる。僕は 「何か変なこと言っちゃったかな」  と曖昧に笑ってみせる。 「……少しここで休まないと頑張れそうにないなあ」  不意に玲乃がしょんぼりとした顔で呟いた。 「西園寺さんから1時間休憩もらったし、保健室で休んでいようよ。僕はコーラも拭けたから自分の仕事に戻らなくちゃ」  立ち上がろうとした僕の腰を玲乃が足で抑え込む。シフォンメイド服のスカートの隙間から雪うさぎのような白い足がのぞいて目を逸らした。目線をどこに置いていいか迷う。 「睦がいればエネルギーチャージできるんだけどなあ」 「……わかったよ」  甘える声に僕は素直に降参した。 「ほら。おいで」  いつもは玲乃の部屋でやっている甘えたモードがONになっているのを見て、僕は学校でそういうことをするのは大丈夫なのかと心配になる。  しかし玲乃が笑顔のままフリーズして動かないので渋々玲乃の身体にふわりと飛び込んだ。ぎゅーっと腰を抱き寄せられ服越しに熱が伝わる。突然、玲乃が僕の頬に顔を寄せてくすぐったい感触がした。熱くて柔らかいものが頬に触れた気がした。 「ふぇ?」  思わず変な声が洩れた僕に玲乃は 「睦の頬っぺ、コーラの味する」  と眠たげに呟いてから目を閉じて寝入ってしまった。  なんなの一体……。  僕は火照る頬に手を置いて耳まで赤くさせて玲乃の休憩時間が終わるまで抱きしめられていた。

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