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第31話 文化祭2日目 睦がかわいすぎて無理な件
その相談が僕のもとへ届いたのは文化祭2日目が開幕する1時間前のことだった。
映画研究同好会の部室で今日の準備をしていた僕はぴりりとスマホが鳴ったのに目をやった。初めて西園寺さんから電話がかかってきてびっくりしながらも通話ボタンをおそるおそるぽちりと押した。
「ねえ。今どこにいる?」
「今は映画研究同好会の部室だけど……どうかしたの?」
「ええとね。ちょっと守須くんに相談があって……。教室まで来てくれない?」
「うん。わかった。今から向かうね」
一体何の相談だろうと僕は不安になりながらも西園寺さんに頼られている気がして少し嬉しい気持ちが不安より勝った。
「お願い! この通り!」
ぱん、と両手を合わせて僕に頭を下げる西園寺さんに合わせてAチームの他のキャストもみんな頭を下げる。玲乃は寝坊して遅れているらしく教室にはいなかった。
「あの、その、僕でいいの?」
潤んだ瞳の西園寺さんに念の為確認してみる。
「守須くんしかいないの! あの馬鹿の代わりをお願いできるのは」
Aチームのキャスト全員が力強く頷いている。
「昨日の文化祭でかき氷食べすぎて体調不良で休んだAチームの|高見《たかみ》くんの代わりに女装して欲しいの……!」
高見くんというのはAチームにて女装を担当する予定の男子生徒だ。小さい頃から「馬鹿」が付くほどのサッカー少年で、日焼けした褐色の肌や少し茶色がかった髪の毛が平成男子感満載の爽やかなスポーツ男子だ。
僕は昨日、玲乃と保健室から教室に帰ってきたときに高見くんとすれ違った。高見くんの担当時間は終わったらしく、いつものようにワイシャツの下に黄色いクラスTシャツを着込んで連れの男子生徒と何やら話していたのを覚えている。
その時、高見くんは確かに玲乃にこう言った。
『玲乃。俺は今日、漢になるぞ。かき氷何杯食べられるか隣のクラスの|望月《もちづき》と勝負だ!』
その後の経緯については西園寺さんが先程説明した通りだ。
結果、高見くんは10杯のかき氷を食べ切り勝負には勝ったものの、文化祭2日目には体調不良のため登校できなかった。
僕は笑っちゃいけないとわかっているものの、学校を休んだ理由が小学生の勝負みたいに可愛く思えてつい和やかに受け止めてしまいそうだった。
「で、どうなの? 守須くん。高見くんの代わりに今日1日コンカフェ嬢として女装してくれる?」
あまりにも真剣な瞳で聞いてくる西園寺さんやAチームのみんなの圧に負けて、僕はゆっくりと頷いた。
「えと、僕でよければ高見くんの代わりに女装するよ」
「よっしゃー!!」
と西園寺さんが雄叫びを上げたのを見て、Aチームのみんなが拳を突き上げて「おーっ!」と気合いを入れた。僕はその勢いに言葉を失ったが、気を取り直して西園寺さんにひとつだけ質問をする。
「でも僕、女装なんてしたことないけど大丈夫なのかな?」
素朴な疑問を伝えると西園寺さんは得意げにグッドポーズをした。
「女装のメイクは任せて! わたしが魔法をかけてあげる。衣装も高見くんのがあるからそれを着れば大丈夫。高見くんより守須くんのほうが細いから上手く衣装の大きさ調整するね。安心して」
文化祭2日目がスタートするまであと1時間。
教室内でクラスのみんながチームに別れて最終日の準備を始めた。僕も覚悟を決めて西園寺さんにぺこりと頭を下げる。
「……わかった。僕ができることならなんでもやってみるよ。メイクと衣装お願いします……!」
「ありがとう! さあ、みんな守須くんの準備に入るわよ。メイクと衣装用意して」
Aチームのみんなは既にメイクや衣装が完了していた。裏方に集まり大きな姿見の前に置いてある椅子に座らされる。
「ここからは集中したいから、みんなは他のチームの準備を手伝ってて」
西園寺さんから指示を受けるとAチームのみんなが散り散りに裏方から出ていった。
僕はまだ、このあと自分の身に何が起きるのかを知らなかった。
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