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第42話 身体に触れる熱 (R15)

 僕は玲乃の柄物のシャツを肘から抜き取り上半身を裸にさせた。ボディーシートを片手に 「ごめんね。ひやっとするかもだけど、我慢して」  と囁き玲乃の身体に触れた。まずは首元を冷ますように何度か往復する。玲乃は首元がくすぐったいのかびくっ、と身体を揺らした。 「ごめん。くすぐったい?」  心配そうに見つめる僕に玲乃は掠れた声で呟く。 「くすぐったいっていうか……まあ、大丈夫」  頬に熱が集まっているようで熟れたりんごのように真っ赤だ。僕は急いで汗を拭き取らないと玲乃の体調が悪化すると感じて素早く丁寧に脇の下や背中、お腹を拭いていく。最後に1番汗をかいている胸の辺りに手を載せると玲乃の心音が激しく脈打っているのが伝わってきた。  高熱で意識も朧げだし目はとろんとしてるし、早く休ませてあげなくちゃと思った。  僕は玲乃の胸にひんやりとしたボディーシートを重ねた。すると、再度玲乃の肩が短く跳ねた。歯を食いしばるような険しい表情に僕はいてもたってもいられずに玲乃に聞く。 「大丈夫? どこか苦しい?」 「……いや、いいから。早く拭いて」  そう言いつつも眉を寄せる玲乃に対して僕は内心大慌てで汗を拭き取る。上半身を拭き終わったところで僕は玲乃の履いている黒いスラックスを下ろそうとした。その時──。 「見なくていい、から」  上を見上げれば玲乃が目元を潤ませて手のひらで額を押さえていた。   玲乃の掠れた声に、僕ははっとして手を止めた。    触れていいラインを越えてしまいそうだったことに、今さら気づく。 「……ごめん。無理させるつもりなくて」  そう言って視線を逸らすと、玲乃は小さく息を吐いた。  それだけで十分だった。これ以上は踏み込まなくていい。 「新しい服、用意するね。自分で着替えられそう?」  と問いかければ玲乃は大人しくこくんと頷くだけだった。  玲乃の部屋のクローゼットから衣装たんすを見つけ服を漁る。今履いている下着と同じロゴの黒バージョンのボクサーパンツを手に取ると玲乃に手渡した。灰色の上下スウェットも畳んで手渡す。 「僕、経口補水液とかゼリーを冷蔵庫に入れにいくからその間に着替えてて。ゆっくりで大丈夫だから」  そう言い残し玲乃の部屋を後にした。キッチンに入り冷蔵庫の中を覗くと納豆、卵、白米、鶏胸肉、ささみ、ヨーグルトや牛乳、コーヒーが入っていた。冷凍庫も確認すると冷凍のブロッコリーやほうれん草、ナス、鮭の切り身などが確認できた。  僕は早速玲乃に食べさせるお粥を作り始める。白米に水を少し入れて火にかけて、鮭の切り身を茹でて1口サイズに切っていく。鮭と溶いた卵2つを白米の上に乗せて箸で混ぜる。白だしをスプーン2杯分入れてからじっくりコトコト5分蓋をして待つ。ほぐした鮭のいい匂いが鼻を掠める。全体がぐつぐつ沸騰してきたところで焦げないように火を止めた。少し冷ますために小分けにして器に入れる。  僕はお盆にお粥とれんげ、冷やしたゼリーを載せて玲乃の部屋の扉を開けた。 「玲乃。お粥作ってみたよ」  服を着替えた玲乃の表情は少し穏やかになっている。力なくベッドの背もたれに腰掛けてスマホを眺めているのが見えた。 「洗濯物を回しておくから先に持ってくね。お粥食べれそう?」 「うん……睦の手作りお粥なら食べたい」  僕は食欲があるのはいいことだとこっそり頷き、玲乃の洗濯物を持って洗濯機に入れた。洗剤を入れ柔軟剤を少し加える。スタートボタンを押せばすぐに機械音を鳴らして動き出した。  玲乃の部屋に戻るとベッドの上にお盆をのせてお粥をれんげで掬っているところだった。  その横顔は天女のように柔らかな表情で僕の目が釘付けになる。普段の学校で見せる玲乃の表の顔は気怠げでどこか人あたりが厳しくて近寄り難い印象を与えている。  それなのに今は玲乃の裏の顔である「甘えたくん」がぴょこんと顔を出している。こうした玲乃の表と裏の表情を知っているのは自分だけなんだという特別感や優越感をいつまでも持っていたいと僕は思う。  一番近くにいて、傍で玲乃のことを想っていたい。この気持ちが溢れないようにきつく蓋を閉めて、どうかもう少しこのまま夢のような時間が続いて欲しいと思った。

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