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第63話 襲いたくなる衝動に駆られるのは、好きすぎて頭がおかしくなりそうだから(side玲乃)R15
「さ、さっきの写真見せてよ」
ひとつめのアトラクションの空飛ぶイルカとベルーガに乗るために列に並んでいると、顔を赤くさせた睦が声をかけてきた。赤ちゃんみたいにぷにぷにほっぺがさくらんぼみたいに赤くなってて、美味そうだなと思ってスマホを見せてあげた。
「イルカ可愛かったなあ。玲乃、サングラス外してくれたんだね。やったあ」
俺のスマホの写真をしげしげ眺めている睦を見たら、なんだか可愛くてその場で抱きしめたい衝動に駆られた。けど、それは無理だ。ここは人目の多いテーマパークだし、真昼間。さすがの俺も堂々とハグできる強心臓はしていない。なのに睦は──。
「玲乃、ありがと……!」
ぎゅ、とさりげなく俺の右腕に手を絡めてくっついてきた。ぴとっとくっつき虫みたいになって、列にそのまま並んでいる。
やばい。天国だ、これ。俺、今日召されるの?
内心ワハワハしながら睦からの積極的なボディタッチに満足する。周りの目があるのもあって、俺はつんと澄ました顔をして
「いいよ。俺と睦の仲でしょ」
とサングラスの下で目を細めた。
「……うんっ」
睦はすっかり甘えて俺にくっついてくる。ふと、周りの様子を観察してみたが俺たちを変な目で見てくる人はいなかった。むしろ、若い女性のグループが俺たちを見つめてこそこそ内緒話をしているのは見えたが放っておく。関わってもプラスにはならないだろうし。
空飛ぶイルカとベルーガのアトラクションに乗っている間も、睦は俺の手を離すことなく楽しんでいる様子だった。無邪気な子どもみたいな睦の笑った顔が見れて俺は大満足だった。
近くにあるレストランで早めの昼食をとることにした。そこはあらかじめ調べておいたレストランで、昼以降は混雑しやすいらしい。特に、人気商品は夕方には完売してしまうこともあるのだという。俺は今日、絶対に睦をここのレストランに連れてきたくて下調べを念入りにしていた。たぶん、睦はそんな俺の事気づいてないと思うけど。
「海の森レストラン? 水族館みたい……」
「じゃあ、こっちの席にしよ」
アクアリウムを眺めている睦の手を引き、こじんまりとした角のテーブル席に座る。まだお客さんは少なくて、理想的な席が取れてほっとしていた。
「ほら、睦。これとかどう? 甘いの好きでしょ」
「すごい。美味しそう。フルーツパフェにチュロスにドーナツに……迷うなあ」
「俺はこれ。ハニーチュロスにする。違う味をお互い頼んで半分こする? そしたら両方食べられるよ」
「うんっ。そうする」
俺の提案を笑顔でのんだ睦を見て内心ニヤリとする。このやり取りもシュミレーションしていた通りの結果になった。
実質、間接キスだってことわかってないんだろうな。
そんな無邪気な睦が微笑ましくて、注文のタブレットを押した。
「玲乃。はい、ちーず」
カシャカシャ、と注文したチュロスが提供されると睦が自撮りをしてツーショットを撮ってくれた。あんまり写真を撮りなれていない睦は、小さな手からスマホを何度も落としそうになっていたのですかさず俺が持つことにした。普段、自撮りや撮影は得意だからこういう時くらいリードさせてほしい。
「玲乃の変顔かわいくてずるい」
「そうかな? 睦のは面白系ね」
「もーっ」
ぷくぷくほっぺを膨らませる睦。笑顔も変顔も睦の希望で撮ってみたが、少し不服そうだ。そんな顔も可愛いから仕方ない。
その後はチュロスの他にもハンバーガーとポテトを食べてレストランを出た。
フォトスポットになっている宮殿の前で、近くにいた夫婦にカメラを渡し写真を撮ってもらうことにした。サングラスを外す。最初の2枚は全身を映して立ったままのポーズ。そして最後は、俺がずっとやりたくてこの夏筋トレしまくった成果を見せるポーズだ。
「睦。ほら抱っこ。おいで」
「えっ、恥ずかしいよ……! 人がいっぱいいるから目立っちゃうよ」
「いいから。一瞬だけだから、ね? お願い。彼氏の言うこと聞いて?」
「……うん。一瞬だけなら」
ぽす、と俺の広げた腕の中に飛び込んできた睦を抱っこして、そのまま膝を曲げさせる。膝を持ち上げ、睦に俺の肩を掴むように告げた。
「うわっ、高い……」
「このまま、はい。俺の顔見て」
「……うん」
じーっと目が合う。数秒間は目を合わせてくれたけど、睦は恥ずかしそうに目を伏せてしまった。カシャカシャと写真を撮る音が夫婦の手元から聞こえてきた。
「めちゃくちゃいい写真撮れましたよ!」
「ありがとうございます」
夫婦の撮ってくれた写真には宮殿を背景にして、俺が睦を膝抱っこして持ち上げているのが映っていた。代わりに今度は俺が夫婦のツーショットを撮り、その場から離れた。
俺たちが撮影しているのを見て、野次馬が湧き始めていたからだ。
「ねえ、さっきのポーズって何?」
野次馬を巻いて喧騒から離れた海辺のエリアのベンチで睦がアイスを食べながら聞いてきた。俺は写真を見せながら解説する。
「これはカップルしかやっちゃいけないポーズ」
「ええ!?」
睦の口からいちごアイスが落ちそうになったので、指で掬ってそのまま食べたら、またすぐに顔を赤くしていた。睦の反応は見てて飽きない。初々しいのだ。
「記念写真。俺たちが付き合ってからの」
「……うん」
辺りに人がいないのを確認してから睦のほっぺにキスをした。触れるだけの優しいキス。すると睦は少しぽーっとした後に俺を真正面で見据えると、ちゅ、と口にキスをしてきた。突然の事で頭がショートした。
初めての睦とのテーマパークデートのキスはいちごの味がした。
だけど、大事件が起こったのはそんな甘い思い出の直後だった。睦がお土産屋さんに入った時に、少し待っててと言われ外で待っていたのだが。
「やめてください……!」
「いいじゃん。ちょっと俺と遊ぼうよ」
「恋人と来てるのでお断りします」
「ちっ、んだよ」
睦の腕を引っ張る野良の男とのやりとりを聞いていて、いてもいられなくなり仲裁に入る。
「はい。お兄さんアウトでーす」
クールな雰囲気を醸し出したが、内心はマグマのように怒りが
「玲乃っ」
睦は泣き虫の顔で俺の後ろに隠れる。男は俺を一目見て萎縮したのか、その場から駆け足で逃走していった。
「睦、大丈夫? 腕、少し赤いね」
「掴まれた時、力が強かったから……でも平気。玲乃が助けてくれたから。あとね、これ……」
「ん?」
「玲乃との初テーマパークの記念に、どうかな?」
玲乃の手のひらに、ころんとしたキーホルダーが置かれた。イルカとベルーガのチャームだ。
「ありがとう。嬉しい。睦は白いベルーガで、俺はイルカだね」
「うん。僕もそう思って買ったんだ」
睦の笑った顔がたんぽぽみたいに柔らかい。ひやりとする場面はあったものの、その後は変な輩に目をつけられないよう睦の身の回りを警護した。
というわけで、その日はアイスを食べた後、睦が眠たいと言ってきて俺も幸せすぎて寝たかったから家に帰った。
幸い、帰りの電車の中でも俺たちは誰かに盗撮されたり、つけられている様子はなかったので少し気を休めることができた。インフルエンサーのデメリットでかすぎなと思いながら、最寄り駅に着いた。睦は俺の肩に頭を預けてすやすや寝てたから少し肩を揺らして起こす。
「睦。最寄駅ついた。タクシー乗るまで頑張って歩ける?」
「……うん。頑張る……」
ふにゃふにゃしたままの睦を抱きかかえてタクシーに乗り込む。自宅前まで着くと、車内で眠ってしまった睦をお姫様抱っこしてマンションのエレベーターに乗った。その重みがなんだか嬉しくて幸せで、へんに泣きそうになった。
自分の触れられる距離に睦がいることが幸せでたまらなくて。けど、どうしてももっと触れたい衝動に駆られて抑えるのが大変だった。
「……睦」
睦のことを大切にしたいのに、それ以上に睦の全てを暴きたい気持ちになる。暴走しそうな心をなんとか沈める。火照った身体ではすぐに寝付けそうにない。でも、すやすや眠る睦の横顔を見たら、やましい気持ちなど遥か彼方に飛んでいき、今夜はこのまま寝ると自分に言い聞かせた。絶対に睦に許可なく手は出さないと誓って。
その日の夜は悶々としていて自分との闘いだった。ベッドの隣で眠る睦に「おやすみ」と言ったら、その返事をするようにぎゅっと俺の服の袖を掴んできた。
「睦は寝ててもかわいいね」
俺の苦笑と共に甘い独り言が寝室に落ちた。
Fin
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