64 / 64

第64話 とある日のおうちデート

「玲乃ーっ」  僕はベッドで毛布にくるまっているおくるみのような赤ちゃん玲乃を起こしにきた。 「んー……まだ眠い。寝させて」 「もう12時だよ。それに今日はおうちデートの予定でお昼ご飯頑張って作ったから食べて欲しいな」  きゅるるんビームを送れば、玲乃はがばりと毛布を剥ぎ取り僕をじっと見つめる。そして抱きついてきた。そのままベッドに倒される。 「うー……重い」 「エプロン姿の睦いいね。かわいさがましまし」  よしよしと頭を撫でられる僕。 「んっ」  ちゅ、と寝起きの玲乃に唇を奪われる。1回だけだと思っていたのに、玲乃はついばむように何度も唇を重ねてきた。ふにふにした柔らかい唇に絆されて、手足の力が抜けていく。 「完全に溶けてるね」 「……玲乃がいっぱいキスするからだよ」  おもちみたくひらべったくベッドに溶けた僕を、玲乃が満足げに見つめてくる。その眼差しは恋人同士の甘いもので胸がぽかぽかと温まる。 「じゃあもう少しだけくっつく」 「やさしい睦のこと大好き」 「んもー。そんな都合のいいこと言っても信じないんだからねっ」 「むすむす睦もかわいいよ」 「むーっ」  僕が膨らませた頬っぺたを人差し指の先でつんつんしてくる玲乃に負けてしまう。  普段はクールな彼氏が甘えんぼうになってそんなにかわいい攻撃をしてきたら、僕のHPはゼロになってしまいます。  結局その後も玲乃にされるがまま、猫みたいに腕の中に囲まれてじゃれあっていた。 「チーン」  というオーブンの合図の音が聞こえて、ベッドから起き上がる。玲乃は僕が急に動き出したことに驚いたのか目を丸くしてる。  驚いた顔もかっこいいなんて、インフルエンサーってすごい。 「あつあつのできたてだよ」 「じゃあ食べに行く」  ベッドから下りて玲乃を見れば、その場で服を着替え始めてしまった。後ろを向いてみないようにしていたら、玲乃がピアスをつけながら僕の顔を覗き込む。 「これくらい慣れてもらわないと。彼氏でしょ」 「はい……」  意地悪な笑顔もかっこよくて、ずるい。  僕はキッチンに向かいミトンをはめてから慎重にオーブンを開いた。落とさないよう、かつ火傷しないようにグラタンをテーブルに置く。白くて丸い器に茶色い木製のバケットを重ねて、隣にはスプーンとフォークを置く。  テーブルの上には真ん中にスノーホワイトの花瓶を置いて、白い薔薇をさしておく。玲乃が寝ていた午前中に近くのお花屋さんで買っておいたものだ。 「すごい。これ睦が作ったの? あと薔薇も綺麗……」 「うん。今日はおうちデートしたくて。最近、撮影で忙しかったでしょ。だから久しぶりにお休みが合う今日は、外に出かけなくても家で2人まったりしたいなって思って」 「……ありがとう。嬉しい」    照れたようにはにかむ玲乃。僕はそれを見れただけで心が晴れた。  ここ最近、玲乃は雑誌撮影の仕事が入っていてなかなか会えていなかった。今日はいつものように半同棲状態の玲乃の家で寝泊まりし、昨晩にスーパーでグラタンの材料を買っておいた。  昨日、玲乃が帰ってきた時に少し疲れていた様子だったからあまり会話はせずはやめに寝させた。 「グラタンうまそ」 「熱いから気をつけてね」 「俺は睦みたく猫舌じゃないから大丈夫」 「む」  玲乃劇場もいつも通り開演中。こうしてちょっかいをかけられるのは嫌じゃなくて。むしろ、僕を笑わせようと色んな技を繰り出す玲乃のことがかわいくて仕方がなかった。  一口、ふうふうと冷ましてから玲乃がグラタンを口に含む。  ホワイトソースとミートソースの加減どうかな。黄金比を目指してみたんだけど……。  きらり、と玲乃の瞳が輝いた。僕を見つめて親指を上げていいねポーズを見せてくれた。 「うんまい。睦の手料理はいつも美味しいけどこれはダントツ!」 「へへ。ありがとう」  ついつい照れてしまって髪の毛を耳にかけた。僕もできたてを食べてみる。 「んーっ」  上にかけたチーズがとろとろでコクがあって美味しい。グラタンの中には弾力のあるもちもちなペンネと、鶏もも肉、玉ねぎが入っている。  シンプルな味付けだけど王道だよね。ネットでレシピを調べて作ってみて良かった。今度は中の具材を変えてみようかな。  もぐもぐとグラタンを味わっていた時、目の前の席で玲乃が食べ終えてしまっているのが見えて胸があたたかく膨らんだ。  そんなに美味しいと思ってくれたのかな?  1人前をペロリだし。  玲乃は花瓶にさしてある白い薔薇を見つめてその花弁にそっと指先で触れた。  それにしても白い薔薇と白い髪の玲乃の相性抜群だなあ。白馬の王子様みたい。  うっとり見とれていたのがバレてしまうのも、恋人同士なんだからいいかと思って。 「睦が選んでくれたの? このお花」 「うん。今朝、お花屋さんに行って、玲乃に似合うかなって」 「嬉しい。ありがと。でも、本当はお花をプレゼントするのは俺が先が良かったな。だってこんなに嬉しい気持ちになるから、睦に先に味わって欲しかった」 「玲乃……」  胸が甘くきゅうっとなる。    僕の彼氏はとってもロマンチックな王子様です。 「睦。じゃあ今日のおうちデートは俺に任せて。いっぱい楽しませてあげる」 「うんっ。僕も玲乃のこと癒してあげたい」 「もー、それ反則。かわいすぎ」  ぎゅーっと抱きしめてくれる玲乃の腕の中。この世界で1番落ちつく。  僕の王子様は今日もやさしくて、僕への甘やかしが止まりません。

ともだちにシェアしよう!