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第10話

 どうしよう、どうしよう、嬉しいのに喜べないよ。だって一磨はどうなるの? 生放送で僕に、男に、告白をしてしまったようなものだよね? 視聴者は気づいちゃったよね?  僕は混乱する頭を抱えながら廊下を走った。しばらく走っていると、僕はエレベーターを見つけ、迷わず屋上に向かった。外の空気を吸えば、少しは冷静になってこの状況を考えることができるはずだ。  エレベーターが屋上に着くと、僕は屋上に出て、大きく深呼吸を二回した。走ったのもあるけど、それ以上に心臓が壊れそうなほどに暴れている。  僕も言いたい。一磨が好きだって、愛してるって。でも……。 僕はこみ上がる感情にまた頭が混乱してしまい、屋上の手すりまで近づくと、そこに自分の頭を強く押し付けた。  「湊……」  その時、僕の背後で声がした。僕はそれが一磨だと気づくと、体を強く強張らせた。足音が近づいて来るのが分かるけど、石のように固まってしまって、振り向くことができない。 「やっと言えた。湊が好きだって……」   一磨はそう言うと、僕に背後から覆いかぶさるように、僕の両脇の手すりを掴んだ。そのせいで、僕は一磨から閉じ込められた状態になる。 「こっち向いて、湊……顔を良く見せてくれ」  一磨は、背後から僕の耳元にそう囁いた。その湿度のある声に、僕の首筋がぞわっと粟立つ。 「何であんなこと生放送で言うの? 一磨は自分の芸能活動に支障が出ても、構わないの?」  僕は思い切って一磨の方に体を向けると、一磨を真っ直ぐ見つめそう言った。ただ、近くで見る一磨の顔が本当に眩しくて、僕は思わず目を細める。 「構わないよ。俺は自分がゲイだってことがバレても全然平気だ。もしそれを世間が受け入れてくれないなら、芸能人なんて速攻でやめる。言っただろう? いつだって俺の胸を熱くさせるのは湊だって。俺の人生で、一番大切な存在は湊なんだよ……」 「一磨……」  僕は一磨の両腕を掴むと、その大きな胸に思い切って飛び込んだ。嬉しくて、本当に嬉しくて、夢じゃないかって思えるくらい幸せで。 「僕も一磨がずっと好きだったよ。あの試写会で、僕は一磨を諦めようとしたんだ。僕の完全な片想いだって思ってたから。一緒にいたのは僕がマッチングアプリで知り合った人だよ……でも、僕は山田さんに悪いことしちゃったな」   僕がそう言ったと同時に、一磨は息もできないくらい僕を強く抱きしめた。 「……教えて欲しいんだけど……湊はさ、まさかあの男と、その、シテないよな? もちろんキスとかも」  まるで僕の答えを聞くのが怖いみたいに、一磨は声を震わせながら僕に問いかけた。 「もちろん。だって会ったのはあの時が初めてだったし」 「ほんとうに? そうか……良かった、本当に良かった……」  一磨はそう言うと、安堵したのかいきなり膝から崩れ落ち、僕の視界から消えた。 「一磨! 大丈夫?」  僕は慌てて一磨の脇に手を入れて立たせたが、一磨はいきなり僕の両肩を掴むと、手すりに強く僕を抑え付けた。 「じゃあ、手始めにキスしよう。もし誰かに先にされたら、俺、気が狂いそう」  一磨はそう言うと、僕の顎を掴みそっと持ち上げた。 「湊、愛してる。俺とずっと一緒にいてほしい」 「僕も、一磨を愛してる。ずっと一緒に生きて行こう」  二人で誓い合うようにそう言うと、一磨は僕の口を開かせキスを落とした。僕たちのファーストキスは意外にも激しくて、もし誰かに見られたらどんな言い訳もできないと思う。でも、構わない。僕たちが男同士で愛し合っているのは事実だし、隠す必要もない。もし、それを芸能界が受け入れないのなら、一磨は迷わず俳優をやめるだろう。でも、一磨の才能を無駄にするのは本当にもったいないから、どんな形でもいいから、僕は一磨には俳優を続けてもらいたい。  そしていつか、僕が作るラジオ番組に一磨にゲストで来てもらって、今日の僕たちの恋の話を、二人でできたらいいなと思う……。                                                        了

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