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秘書の松下を通じて、その妻・玲美とも仲良くしているらしく、なかなか会えない愛賀がその間、そのおかげで楽しい日々を過ごしている。
一人でも信用できる相手がいるということは、心の安寧に繋がり、悲しさも寂しさも薄れていくということだ。
人との関わりを避けていたように感じられた愛賀にとっては良いことであろう。
その結果、表情を、それから言葉を出すようになった。
良い事だ。
良い傾向であるはずだから、変わらずにそうするべきだと頭では分かっているはずなのだが、それでも自分のものにしたい、誰にも触れられたくないという欲が出てきてしまっている。
それは厄介な第二の性によるものか、それとも元々の自身に備わっている本能によるものか。
松下が用意したケーキを一口に切り分け、それを口に含む。
今日もちょうどいい。
このケーキを知ったきっかけは愛賀から愛息子である大河が食べている写真を送ってきたことからだった。
口の周りをチョコまみれにするという大河の大胆な食べ方に、一切その気がなかった食欲が増していき、そして同じものを食したいと愛賀に早速どこのケーキ屋かと訊ねた。
元々は松下の妻が買ってきたというケーキ屋はチェーン店であるようで、仕事の移動の最中に松下が買ってきてくれた。
が、珈琲に合うものだと買ってきたケーキがまさか愛賀と同じものだとは思わなかった。
驚きのあまり、数秒間思考停止したほどだった。
それから愛賀に言ったように嬉しく思った。こんな偶然があるとは思わなかった。
それは同時にどんなに仲良くしていようが、食べたいと思ったものが同じだったという偶然にはなったことがないだろうと優越感に浸った。
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