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ケーキというと、愛賀が入院した際に見舞いものとして持ってきたことを思い出す。 入院した理由も妊娠中は食べれるものが限られていたという話から、愛賀を責めるような形になってしまい、無闇に持っていくべきではなかったと深く後悔したこととい、嫌な部分を思い出すものとなったが、今回のことで払拭された。 愛賀もそうであったらいい。 「召し上がっているケーキ、よっぽど美味しいのですか?」 珈琲を持ってきた松下が訊いてきた。 「何故だ」 「いえ、社長が嬉しそうな顔をなさっているので」 「⋯⋯そんな顔を?」 「ええ」 口元を覆う。 愛賀と偶然とはいえ、同じものを選んだという嬉しい気持ちはあったが、顔に表すほどだったか。 本当にそうなのか、と訝しんだ。 「それにしましても、今日も食事をする時間がなかったとはいえ、そちらのケーキでよろしかったのですか?」 「ああ、問題ない」 「左様でございますか」 「では私はこれで」と軽く一礼した松下は踵を返し、自分の持ち場に戻ろうと一歩踏み出した時、「ああ、そういえば」と再びこちらに身体を向けた。 「今、社長が召し上がっているケーキ屋さん、こないだ私の妻も買ってきたんですよ」 「そうみたいだな」 「あ、存じてましたか。それはそうですよね。私が口にするまでご自身がそのような顔をしていることなんてお気づきにならないぐらい、愛して止まないあの御方のことを考えていらっしゃるようですし」 飲んでいた珈琲があろうことか変なところに入ったようで、むせた。 「大丈夫ですかっ」 「だ⋯⋯大丈夫だ⋯⋯っ」 慌てて駆けつけてきた松下を手で制した。 何度か咳き込み、いくらか落ち着いてきた頃、小さくため息を吐いた。

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