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「そこまで動揺なさるとは思いませんでした。今度からは口にするタイミングを見計らいますね」
「⋯⋯そうしてもらえるとありがたい」
松下は秘書としても優秀な男だ。こちらの機微な表情と言動をいとも簡単に読み取り、口にする。
というよりも今回ばかりは少し考えれば分かることか。
なにせ、移動中に愛賀から送られてきたメッセージを見て即座にここのケーキ屋に行ってくれと言い、それから何かとそこのケーキを食すようになったのだから。
「⋯⋯というよりも、謀ったというべきか」
「何か仰いましたか?」
「いや⋯⋯」
「それにしましても、今回に関しては姫宮様に感謝をしたく思いますね」
「というと?」
「以前の社長でしたら、食事を召し上がる時間がなければ珈琲だけで済まされていたので。仮にも沢山の社員を抱える名の知れた大企業の重要な立場であろうお方が、杜撰な管理をなさっていて身体を持ちませんし、そのうち最悪な状況となりますと再三私が言っても改善しなかったのに、姫宮様が食べていたからと素直に食事をするようになったのですから、私は心底安心しています」
再三、も強めて言っていたように感じられたが、"姫宮様"の方がより強く聞こえたように感じたのは気のせいだろうか。
前々からその事に関しては松下に口酸っぱく言われていたが、以前はそれでもやっていけたのは常に気を張っていたからかもしれない。少しも空腹を感じたことがなかった。
食事の時間が摂れたとしても、食事を作業だと思っている節があるからか、美味しいと思わなかった。
しかし、松下が言うようにいつまでも杜撰な食事管理をしていると後で取り返しのつかないことになるだろう。
立場的にも、そして今は愛する者がいる。きちんとしなければ。
それにその愛する者が教えてくれたケーキ屋を食事にしてから、身体が欲するようになっていたのだ。
なるべくその時間を取るようにも心がけるようにもなった。
そのように意識してするとは、と案外単純だなとふっと口元を緩めた。
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