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2-10 後悔はしない
証拠も証人も、彼の国を断罪するだけの材料は揃った。約三年でここまでやれたのだからじゅうぶんだろう。あちらの協力者から送られてきた地図を頼りに、蒼焔 と龍昊 が率いる精鋭部隊のみで決行された。
これには王宮の高官の一部の者たちだけが情報共有をしており、彼らは知らないふりを通したまま、事後報告後に話を合わせてくれることになっている。こちらが有利であること、大義名分があること、そして彼の国の王の企みを脅威とした上で賛同してくれた。
先王を慕っていた者たちにとって、毒殺されたという事実は到底赦せるものではなく。それを指示した者の名はまだ明かしてはいないが、吊るにはまだ足りないものがあった。
それはこの件が片付いてからじっくりと確実に追い込んでいくことになるだろう。まずは目の前の脅威を排除する。蒼焔 は王宮まで続いている道を無言で進んでいく。
この侵攻は華狼 とグレイシア、双方の意思によるもので、それを知らずにのうのうと宴を開いている者たちへの報復でもあった。
集められたのは、ヘイル王とそれに付き従う高官たち。彼らは自身の私欲を満たすため、不正や他国との違法取引を平然と行っているような者たち。
加えてヘイル王が密かに企てている、この地の『統一という名の支配』に加担する者たちでもある。守るべき民を忘れ、ただ力だけを欲した者の末路に情けなど無用だろう。
「こんなことをして、赦されると? 条約違反だけでなく、一国の王が自ら武器を持って他国に攻め入るなど、前代未聞の行為だ!」
「条約違反はそちらの方だろう」
淡々と。低く冷めた声音で蒼焔 は答え、表情一つ変えずに肥えた醜い高官の首を刎ねた。その無慈悲な処刑によって、ひぃい⁉ と他の高官たちが震え上がり逃げ惑うが、大広間の入り口はすでに龍昊 たちによって塞がれており、当然逃げ道などあるわけもなく。
皇帝を守る騎士団はすでにこちら側についているため、場内で騒がしいのはこの大広間だけ。豪華な食事も高い酒も彼らにとっては最後の晩餐といえよう。ここに集められたのは、皇后を慕う派閥によって調べ上げられた、この国には不要な害悪しか齎さない高官たち。
皇帝が皇帝となってから裏で犯してきた非道な行いや、これから行おうとしている他国への侵攻と聖獣の独占を知りながらも、それを良しとした者たちである。
次々と高官たちの首が転がっていく中、ヘイル王は一番奥の玉座に座したままそれを平然と眺めていた。表情はどこか皮肉な笑みを浮かべ、これが誰の差し金かをすでに察しているようでもあった。
「華狼 の若き王よ。噂通りの堅物だな。酒でも飲んで語り合うという嗜みは貴殿にはなさそうだ」
肩くらいまである金の髪は全体的に癖があり、武芸に秀でている者の逞しさが衣を纏っていてもわかった。ヘイル王とは初対面ではあるが、皇帝としての威厳や資質はその雰囲気から感じられる。
どっしりと構えたまったく動じていないような態度。圧倒的に不利な状況だというのに、まるでこちらが追い込まれているかのような感覚さえ覚えてしまう。この者が纏うのは絶対的な支配力。誰も自分には逆らえないだろうという、揺らぐことのない自信。言葉が齎す影響力。
こうして目の前にして改めて思うことがある。
「ヘイル王、あなたのような御方がこのような愚かな計画に手を貸すとは」
「愚か? この地の統一が? 貴殿は何もわかっておらぬようだ」
笑って、ヘイル王は肩を竦めた。
「存在するすべての聖獣を我が物にし、この地を統一する。支配する者とされる者。その頂点に立つという野望は、今まで誰にも成せなかったことだ。いつ壊れてもおかしくない国同士の均衡。争い奪い合うことで生まれる憎しみ。そのすべてが我に注がれ、しかし成すすべもなく跪く様は、想像するだけで昂るだろう」
自身がその頂点に立ち、この地に生きるすべての者を見下すためにこのような謀をしたと?
「聖獣を手に入れるために、己の子まで殺すと?」
先王の毒殺に手を貸したのは、華狼 を侵攻するために必要な協力者の信頼を得るためだろう。王が倒れても次の王が王位を継承する。
目的は王を殺すことではなく、そうすることで恩を売った……もしくは、いざという時に脅しに使うためといったところか。
「そんなモノ、また生ませればよいだけ。妃ならいくらでもいる。我よりも力を持つことがないように、調整する必要はあるがな」
龍昊 は二人の会話を黙って聞いていたが、胸糞が悪すぎて耳を塞ぐか皇帝の口に剣を突っ込んでやりたい気分だった。その皇子がこの場にいなかっただけ幸せといえよう。
「我を殺したとて、次の王が生まれるだけ。貴殿もいずれ同じ道を歩むかもしれんな。己が信念を貫き、それの犠牲になった者たちの屍の上を無心に進んでいく」
「ヘイル王、あなたは己の罪を認めるどころか、償う気もないようだ」
「我が罪とな? 貴殿にとっての罪とは、死にぞこないに毒花を手向けたことか?」
「あなたの罪は俺にも数えきれない。この国の民でさえな」
玉座から立ち上がり、ゆっくりとこちらに下りてくるヘイル王の手には剣が握られていたが、戦う意思というよりは別の意図が見える。
「我にも王としての体裁があるからな。貴殿ごときにくれてやる気はない」
言って、蒼焔 を見下ろし、そのまま自身の腹に剣を突き立てたかと思えば、そのまま勢いよく自らの手で引き抜いた。
「……ぐっ!……ぬぅ………っ」
同時に蒼焔 の頬や黒衣に飛び散った赤い飛沫。瞬き一つすることなく、膝から崩れ落ちていくヘイル王の最期をただ静かに見ていた。
「く……くく……残念だったな……これで貴殿は、目的を成せない……」
何人もの人間の血で染みた、高価な赤い絨毯。独特な臭いが充満する中で。足下に転がるいくつもの苦痛に歪んだ顔。
彼らに何かをされたかといえばそうではない。ただヘイル王に従っていただけ。かと言って、彼らが自国の王を亡くしたとて心を入れ替えるとは考えられない。寄生先が変わるだけだからだ。
それはヘイル王も同じだろう。目的? それは目の前の者を自らの手で殺すことではない。最終目的は、あくまでもこの件に関わったすべての者に相応の罰を与え、断罪すること。
「……我が……野望は、………この、ままでは……終わらぬ……亡霊となって……永遠に……生き続ける、……だろ、う………………」
跪くような形で項垂れ動かなくなった身体。染み込んでいく赤。冷めた眼差しで蒼焔 は見下ろしたまま、ぽつりと呟く。
「目的は完遂された」
結局はまた別の憎しみを生むだけかもしれない。それでも。目の前の者が先王である父の死に関わった事実は変わらない。
跪くような姿勢のまま動かなくなったヘイル王の首に、振り上げた剣を無感情のまま振り下ろそうとしたその時、背後から響いた声に蒼焔 の手が止まる。
「父上!!」
騒ぎを聞きつけて駆け付けた皇子らしき青年が、兵たちに取り押さえられながらも必死に抵抗しているようだった。
あちらの協力者が、当事者以外はこの場に近付けないように上手くやると言っていたが、どうやら予定が狂ったようだ。
止めていた手は無慈悲にも再び振り上げれる。その後に何が起こるかは、もはや一目瞭然だった。
「やめろーーーーっ!!」
後悔はしない。
たとえ怨まれようが、もう止まることはない。
「終わりだ」
両刃の剣に力を込め振り下ろした瞬間、飛び散った飛沫が蒼焔 を赤黒く染めた。
第二章 〜了〜
◆◆◆
〜おしらせ〜
第二章を最後まで読んでくださり、ありがとうございましたm(_ _)m
第三章は全話(10話分)ストックができ次第公開したいと思いますので、しばしお待ちいただけたら幸いです。時系列や矛盾などないかチェックしつつ書いている作品のため、いつも以上にお待たせしてしまうことが多いのですが、その分しっかり書いていきますのでご了承ください。
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