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第9話
アウダが研究施設に戻ったとき、ノルムは資料を抱えたまま立ち尽くしていた。
そして、その姿を見た瞬間――
大きく目を見開き、その場に崩れ落ちる。
「……君が……戻ってくるなんて……」
震える声。
「あの国の話は、よく耳にしている……“国を裏切った”人間が、どうなるかなど……」
アウダは、何も言えずに立っていた。
「私は……もう、会えないものだと……思っていたよ……」
研究室には、機械の低い駆動音だけが残る。
しばらくして、アウダが一歩近づいた。
「……ごめんなさい」
それは、諜報員としてでも、組織の人間としてでもない声だった。
「最初に近付いた理由も……嘘をついていたことも……全部、事実です」
ノルムは答えない。
「でも……」
アウダは視線を逸らさず、続ける。
「ここで過ごした時間が……あなたと話して、研究を見て、失敗して、笑って……」
喉が詰まり、言葉が途切れる。
「……あれが全部、偽物だったとは……どうしても、思えなかった」
穏やかな沈黙が流れる。
やがて、ノルムがゆっくりと顔を伏せた。
小さく、苦笑に近い息。
「そんなふうに言われてしまったら……私は……どう反応すればいいのか、分からないじゃないか……」
アウダは、ほんの少し眉を下げる。
「……それでも
追い返される覚悟で、戻ってきました」
「追い返す?まさか」
ノルムは答える。
「私は、独りなんだ。君を追い返すなど……どうしてできよう?」
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