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第1話
一磨のラジオの公開収録の一件は、映画番宣の演出という形で片付けられた。スタジオを飛び出した僕を一磨が追いかけるというところまですべて、手の込んだドッキリということで誤魔化したらしい。その場にいた僕以外のインターンの子たちにも、ラジオの司会者にも、番組の敏腕プロデューサーが機転を効かし上手くその場を乗り切った。だから、ラジオの視聴者にも一磨のファンにも、一磨がゲイなことと、ずっと好きだった僕という人間がいることもバレてはいない。ただ、あの番組の収録後、一磨と一磨の事務所は、その敏腕プロデューサーに当たり前のことだがこっぴどく叱られたらしい。でも、一磨がゲイだということへの理解は示してくれて、人としてとても尊敬できるプロデューサーだと、一磨は僕に言っていた。そして何より、図らずとも過激になってしまったドッキリが話題を産み、映画の興行収入がグンと上がるという、棚から牡丹餅的な効果が生まれたのは、最早奇跡としか言いようがない。
ただ、今回の件について事務所の人たちは、このような一磨の無責任な行動について、一磨も含めて緊急に会議を行った。北村一磨という、手放すには余りにも惜しい芸能界の新星が、実はゲイだったという事実を知ってしまったからには、今後そのセンシティブなことに対してどのように扱っていくかを相談したらしい。
でも、一磨は開き直ってこう言ったそうだ。『湊と付き合うことを許してくれなければ、芸能界を引退する。本当なら今すぐにでもやめたいけど、湊が続けて欲しいって言うから、頑張ってやっていこうと思っている。演技をすることは楽しいけど、湊に会えない人生は死んだのも同然だから』と。それを聞いた事務所の人間たちは皆で頭を抱えたそうだ。
しかし、僕もその話を聞いて同じように頭を抱えてしまった。一磨の話を聞くと、まったく一磨の自主性が見えてこないからだ。自分の人生なのに、一磨の中心は完全に僕なのだ。それはとてつもなく光栄で、その喜びを世界の中心で叫びたいほど嬉しいが、どうしてそこまで僕を好きなのか、流石の僕も不思議に思えてしまう。
僕も一磨が好きだ。心の底から一ミリの迷いもなく好きだ。でも、それとは別に僕は自分の人生を一磨に委ねることはしていない。自分はラジオに携わる仕事がしたいし、それが僕の胸を熱くさせる。だから一磨にも、僕とは関係なく、自分の胸を熱くさせる何かに本当は夢中になって欲しい。
だって一磨には役者としての才能があるから。それは一磨自身も気づかなかった素晴らしい才能なのだと思う。なのに、一磨は役者というものに全く執着していない。もっと有名になりたい、もっと良い演技をして賞を獲りたいといった野心が全くない。その思いが強いと変に空回りをしたりするから、とても良いことではあると思うが、そんなスタンスではいつか一磨にも限界が来るのではないか。やはり芸能界ってそんな甘い世界ではないような気がするし。
僕は以前そんな自分の気持ちを一磨に伝えたことがあったが、一磨はどこか上の空で、僕の話を真剣に聞いてはいなかったような気がする。
結局一磨の事務所は、一磨の気持ちを渋々受け入れ、例えリスクがあろうとも、今まで通り北村一磨という事務所の一番の期待の星を手放さないことを選んだのだった。
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