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6  ダニエル・アーベントロントはふと、目を凝らした。  針葉樹の黒い木立が、ゆらりと揺れた気がする。  聖女・季紗と彼女の護衛騎士とともに進む、森の中だ。いよいよ夜の帳もすべて落ちようという中、聖女の身の安全を考えるなら、この時間から森を彷徨うのは避けたいところだった。だが、事態はおそらく一刻を争う。  何より、有難いことに聖女自身が「すぐ行こう!?」と前のめりだった。 「アイゼン……、か?」 「えっ」  こちらから掛けた誰何に、傍らの季紗の声が重なる。  果たして、夜の木立から返ってくるのは、「ダニエルか」と呟く、聞き慣れた声音だった。自分の連れた騎士の一人がすかさずそちらへ駆け寄り、ランプを掲げる。  アイゼンだ。  全身、土埃や血にまみれた物騒な様相だが、魔獣との戦闘後だと思えば奇跡のように無事な姿だった。五体満足で歩いており、受け答えもいつもどおり。ひとまずは、大きな怪我を負っているようすもない。  ただ、彼はその両腕に誰かを抱き上げていた。自身の物だろう漆黒のマントを丁寧に巻き付けており、顔は見えないが……。……まさか、とダニエルは息を飲む。 「おい、それは……ルーンハルトか」  上半身部分をしっかりと隠されている友人の姿に、さすがに一瞬、肝が冷える。だが、アイゼンは温かみのある声で答えた。 「ルーンハルトに怪我はない。いまは意識もないがな。ただ事情があって、彼は自分の姿を伏せたがっている」 「……それは……」 「いつか必要があれば、ルーンハルトは自分でおまえに語るだろう。その時までは、何も聞くな」 「……」  そんな言い方では、何もわからない。だが、「わかった」と応じる他ない。  ダニエルの返す沈黙を了承と捉えてか、アイゼンは次に、季紗へと目線を落とした。 「聖女・季紗よ」 「えっあ、はいっ」  ひどく心配そうにルーンハルトのようすを見つめていた季紗は、弾かれたようにアイゼンを見上げる。 「すでに危険はないが、この森にはまだ、魔獣の魔石が残っている。魔石は人の背丈ほどの大きさで、闇の色をした、水晶のような石だ。……あなたには、それを浄化してもらいたい」 「はい」  彼女はぎゅうと、両手にしている聖杖を握り締めた。それを見たアイゼンもやや瞳の表情を和らげ、「任せたぞ」と心安い言葉を使って季紗を力づけるのだ。 「魔石までの道のりは、俺が歩きながら開いてきた。ここからまっすぐ向かえばいい」  アイゼンは再びダニエルへと向き直り、そう伝える。実際、騎士のランプがわずかに照らす範囲だけでも、彼の来た道はあからさまに木立がぱっくりと割れており、道に困ることはなさそうだった。魔法のシールドでも用いながら、適度に木々を薙ぎ倒して進んで来たのだろう。かなり乱雑なやり方だが、道の確保としては効果的だ。 「それから、伝令の鳥を飛ばして防護結界へ連絡を入れてくれ。魔獣は魔石のみを残して砕かれ、俺も無事でいると」 「待て。おまえは、騎士団の元へ行くんじゃないのか?」 「ルーンハルトを誰にも見せたくない」 「――」 「案ずるな。王立公園のすぐ隣には、俺の私邸がある。そこに世話を掛けに行く」 「……案じなど、誰がするか」  ダニエルは目いっぱいの矜持と意地を込めて、自分の表情から心配の色を消し去る。下手くそな冗談であることは大いに自覚しながらも、アイゼンへと笑いかけてみせた。 「嫉妬しているだけだ。三年前もいまも、おまえたちは二人して、あまりにも水くさいぞ」

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