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タチバナ
タチバナは自称18歳の大人。
だけど多分、成人はしている。
だってタチバナはお酒も飲むし煙草も吸う。
土日には競馬新聞を広げて携帯で馬券を買ったり、キャバクラやパチンコ屋から出てくるのを見たって奴もいた。見る度に違う女の人を連れていたという情報もあれば、実はヤクザと関わりがあるなんて話も聞いた。とりあえずタチバナはよく分からない、色んな噂が飛び交う大人。
詳しい事は知らない。
「タチバナってニート?」
「仕事はしてっけど」
「え、詐欺とか?」
学校はサボった。行きたく無かったから。
友達から来ていた連絡は今のところ無視で、彼女からの電話にも出たくは無かった。
「俺ってそんなろくでなしに見える?」
「うん、まぁ…ちょっと」
ずずずと紙パックのミルクティーを啜る。
今日のタチバナは河川敷に居て酎ハイを飲んでいた。アルコール度数9%の5合缶。
並んで座ってぼんやりと景色を眺めた。
「タチバナって学校行ってた?」
「俺すげぇ優等生だったよ。生徒会入ってたし」
「絶対嘘じゃん」
「信用ねぇな〜」
タチバナと出会ったのは冬の終わり。
バイト帰り。雪がまだうっすらと残っていて、それから風が冷たかった。家に帰るのが億劫で寄った公園。妙に明るい蛍光灯。公衆トイレ。
タチバナは準備をしていた。自殺の準備。
持っていたリュックの中には、ロープに包丁。大量の錠剤に練炭まで入っていた。それがうっかり俺に見つかったから、タチバナはヘラヘラと笑いながらその行為を止めた。その後は2人でベンチに座って話したのを覚えている。自殺しようとした理由を聞いてみたけど、タチバナは教えてくれなかった。
「学生時代は恋人いた?」
「いたいた。卒業の時にフラれたわ。遠距離になるのが不安とかで」
「タチバナって意外とモテそうだもんね。めっちゃ女の子泣かせてそー」
出会ってからタチバナはずっと変わらない。
よれたTシャツと、派手な色のジャージ。健康サンダル。自分で染めたであろう雑な金髪。最近は暑くなって来たせいか肩にかかる髪を結んでる事が増えたと思う。かけてるメガネに度は入っていない。175cmの俺よりほんの少しだけ背が高く、だけど全体的に不健康で骨っぽい。ポケットにはレシートばっかりの財布と、箱の潰れた煙草。無くすからという理由で、携帯はストラップを付けて首から下げている。
「すげぇ一途なつもりだったんだけどな〜」
「でもその彼女の気持ち分かるわ。タチバナってなんかほっとけないじゃん。野生に放ったら一瞬で死にそうっていうか。面倒見たくなるっていうか」
「俺のことハムスターかなんかだと思ってる?」
「そんな可愛いくはない」
『ヒモ男』という言葉がよく似合う。例えタチバナがニートのヒモ男でも驚かない。むしろ仕事をしている方が意外だった。
「ひっでぇの。優太クンはそんなんだから彼女に浮気されんだよ。」
「いや、浮気されたのは…」
タチバナはプシュッと2本目の酎ハイを開けた。
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