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第1話

もしもあの時……。 彼をあの場から連れ出していたら、延々に続く回帰ループに終止符を打つことが出来たのかも知れない。 第一王子でありながら母の身分が低いのが理由で草木も生えない極寒の北部に追いやられ何者かに毒を盛られ二十歳で死ぬ。死んだはずなのに。なぜか生きていて。目が覚めると一年前に時間が巻き戻っていた。 二度目も同じく短い人生だった。二十歳まで生きて何者かに毒殺される。でも一度目の人生とは違って誰かが生きてと泣き叫びながら必死で治癒をしてくれた。 俺はいま、三度目の人生を生きている。 回帰しその声の主が誰かすぐに分かった。 男たちの熱い視線の先にその女はいた。私は聖女のルナ。世界一美しいのだからちやほやされて当然。とでも言っている顔だ。 裏と面の顔がある。性格も最悪だ。それを知るのは俺と俺の右腕たちだけだ。 聖女召喚で異世界から来たか何だか知らないけど、恥をかかせたと人前でいきなり怒鳴りはじめて弟の頬を叩いて、後ろに倒れ込んだ彼の体を足で踏みつけていた。 原因は俺の異母弟で、この国の王位継承第一位のロナウドにある。 「ロナウドは誰にでも優しいからな」 「それを言うなら人たらしで八方美人でしょう?本人にはその自覚がないからたちが悪い」 側近のミゲルがやれやれとため息をついた。 「ロナウド殿下とユ―リの仲を邪推して人の恋人を横取りしようとしていると弟に言いがかりをつけ、他の聖女候補たちとかなり陰湿なイジメをしているんですよ。さっさとユ―リ様と婚約して領地のある北部に連れていけば殿下もあの女も手は出せないはずです」 なるほど、その手があったか。もう二度と過ちは繰り返さない。そう固く決心し、彼にゆっくりと近付いた。ただでさえ顔が怖いんですからスマイルですよ、閣下。第一印象が悪かったら一環の終わりですよ。 ミゲルだけでなく部下たちに耳にたこが出来るくらい何度も同じことを言われた。 彼はピクリとも動かなかった。さすがにこの状況はまずいと思ったのか神官たちが騒ぎはじめた。 「床が汚れるからさっさとコイツを外に出して」 「お言葉ですが外は大雪です。死んでしまいます」 「別にいいんじゃない。アタシ関係ないし。ロナ寒いから温めて」 さっきとはまるっきり違う猫なで声でロナウドの腕に抱きつく聖女。ロナウドのほうが一つ年上なのに呼び捨てとは。先々が思いやられる。

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