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第5話

――二学期が始まってから、僕はトンボを追いかけたり、サッカーしまくったりして小4の秋を過ごすつもりでいた。 しかし、A中に行きたいと宣言して10月に塾の模試を受けたところ、合格率15パーセントという散々な結果で、僕は早々に私立中受験専門の塾通いになった。そうこうしているうちに冬が来て、新しい年が来て、春になり。にいちゃんは見事にA中に合格した。 次席だったんだぞ、とにいちゃんは嬉しそうにしていたけど、僕はにいちゃんよりも良い点数の人がいたことにビックリだった。さらにビックリしたのは、あのリョウが同じく一般入試でA中に合格したことだった。ただの柔道一筋のゴリラだと思ってたのに、頭良かったんだ‥‥。 お陰で、一時下がりかけていた僕の受験へのモチベーションは上がり、何が何でもA中に合格してやる!って気持ちになった。 にいちゃんの月イチのアレは、相変わらずやってきていて、にいちゃんは僕がお願いするとたいていは好きにさせてくれた。にいちゃんの機嫌が良ければそのまま、おっぱいを枕にして寝たりしていた。でも、朝起きると必ずにいちゃんはベッドからいなくなっていて、いつもの平べったい胸に戻っていた。パジャマ姿で朝のオレンジジュースを飲んでるにいちゃんを見てると、いつも僕は都合のいい夢を見てるんじゃないかって気持ちになった。アレの次の日は僕はいつにも増して注意力散漫になった。ぼーっとして、何も考えられなくなった。にいちゃんが新しい制服に身を包み、毎朝電車に揺られてA中に行くようになると、僕は小学5年生になった。にいちゃんはまた、リョウと一緒に近くの道場に行くようになり毎日楽しそうだった。 ******* 「学園祭?」 「そう。11月の第二土曜な。」 小5の秋。にいちゃんはA中のブレザーのネクタイを緩めてソファに寝転んでる。道場から帰ってきたばかりで、疲れているみたいだ。にいちゃんは中学生になってからまた背が伸びて、168センチになった。あと、受験期に視力が落ちてしまってたまに眼鏡をかけるようになった。今はしてないけど。 キッチンではママが夕飯を作りながら、僕らの話を聞いている。今日もパパは遅いらしい。 「にいちゃんもなんかやるの?」 「中等部は合唱コンクールだけ。高等部は喫茶店とか、クラスごとで色々あって面白いみたいだけど」 「行く!ぜったい行くし!」 「はいはい、勉強頑張れよ。疲れたし寝る」 「「ご飯は?」」 僕とママが全く同じことを話すと、にいちゃんは、食欲ないから要らない、とだけ呟いた。それを聞いたママが、洗った手を拭きながらキッチンからリビングに現れる。 「ちょっと、大丈夫なの?インフルとかじゃないでしょうね?」 「大丈夫だよ、熱ないし。お風呂は最後でいいよ」 「ちゃんと制服かけておくのよ」 「わかってるよ」 にいちゃんは額に近づいたママの手を鬱陶しそうに払いのけると、二階へ行ってしまった。それからすぐに、にいちゃんの部屋の扉の閉まる音が聞こえた。ママはまだ心配そうな顔をしていたけど、ふぅと溜息をつくと、またキッチンに戻って行った。最近暑かったり寒かったりだから、風邪でも引いたのかな、大丈夫かな‥‥と思ったけど、こういう時、にいちゃんは心配されるのをものすごく嫌がるのだ。僕もママと同じく溜息をつくと、宿題に戻った。ああ、お腹減ったなぁ。

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