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第4話 言葉が出ない
翌朝、彼はまだ眠っている。
今日こそ食べさせるか、検査するか決めないといけない。
蒸しタオルを用意して、身体中を拭いた。
今朝は熱が下がっていた。
この刺激で目を覚ましてくれるといいんだけど。
下は留置カテーテルだから、おむつを当てている。
もう三日目なのに排便がない。
連れて帰った日が舞台だったから、当日に反応があったのならいいけど、相当な身体のダメージだったから恐らくないな。
あんなに吐くなんて、それまでに食べられていたのかさえ不明だ。
良い方に考えても4日目か? いや、多分それ以上だな。
乾いたバスタオルを当てながら、蒸しタオルで全身を拭いた。
どうしても今日は目を覚ましてほしい。
上半身を起こして、買ってきたタンクトップを着せた。
浴衣も交換しないといけない。
病院から病衣を借りてきた。
前が全部開くから助かる。
すべて済むと、肩を軽く叩いて「水が飲めるか?」と尋ねた。
すると彼は目を開け、うなずいた。
よし。吸い飲みで水を飲ませた。結構飲んだ。
あれ、もしかして起きていたのかな?
まあ、あれだけ身体を拭きまくってれば嫌でも目が覚めるな。(笑)
「なにか言いたいことがあるの?」声を掛けると、
手を喉に当てて何か話そうとするが、声が出ていない。
どういうことだ?
「声が出ないの?」
彼は小さく頷いた。
上半身を起こして、メモとペンを持ってきた。
彼はゆっくりと文字を書いていく。
それを見つめていると、こう書かれていた。
<お世話になってすみません。まだもうちょっとここにいても良いですか?>
「うん、いいよ。全然かまわないけど、誰かに知らせる?」
またメモに書く。
<いいえ。それはしません>
やっぱりか。俺は少し微笑んだ。
やはり訳ありなんだね。
「うん、わかったよ。誰にも言わないよ。お粥があるけど食べる?」
彼はうなずいた。
「じゃあ、持ってくるね」
朝食は全粥と野菜スープ、卵焼き、ハム、トマト、佃煮、果物だ。
トレーに乗せて持っていった。
上半身を起こして、背中に俺のベッドの枕を当てた。
トレーの朝食を見て、彼は少しうれしそうにした。
食事は二日ぶりか、もしかしたら三日ぶりなのかもしれない。
初日はあれだけ嘔吐に苦しんでいたが、今は大丈夫なのかな?
聞きたいことはいっぱいあったが我慢だ。少し待とう。
せっかく今は食べられているんだ。
機嫌よく食べて欲しい。
今日は午前は家で事務仕事、午後から出勤と看護部長にメールしておいた。
見ていると、彼は見事に完食した。
「いっぱい食べられたね。偉い偉い!」
つい頭を撫でてしまった。
彼は照れたように俯いた。かわいい。
「食事ができるなら、もう点滴は止めようと思うけど、お昼ごはんも食べられそう?」
やや微笑んでうなずく。
「あと、トイレまで歩けそう? 歩けるならカテーテルの管を外せるけど、どうかな?」
少し躊躇していたけど、頷いたのでいけそうだ。
「うん、じゃあ外してみよう。ほら、三日間出してないでしょう? トイレでなら出せるかな?」
そう言うと、彼の顔が真っ赤になった。
うわ、恥ずかしがり屋だったんだ。まいったな。
「あのね、俺は医者で君は今入院中と同じだから、出たかどうかは毎日聞くよ。いい?」
うつむいたままうなずいた。あれ~真っ赤のままだ。
とりあえず留置カテーテルを抜去した。
その間、彼は布団を頭からかぶっていた。
はは、これも恥ずかしかったんだな。
抜いた後は、買っておいた下着を履かせてあげた。
「じゃあ、トイレまで歩いてみてくれる?」
彼はそろそろと起き上がり、トイレまで歩いて行った。
俺は後ろからいつ倒れても支えられるように、両手を前に差し出してついていく。
伝い歩きながら、なんとかトイレまで行けた。
「じゃあ、ついでだから歯磨きしようか?」
そのまま洗面所に連れて行き、コンビニで買っておいた歯ブラシを渡した。
彼は歯磨きをして、顔を洗った。
「じゃあ、もう大丈夫だね」
またベッドで休ませると、安心したように目を閉じた。
俺は食事の後片付けと、昼食の下ごしらえを始めた。
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